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「どうかな? 悪いようにはしないよ」
クローヴィスは人が好きそうな笑みを浮かべ、マーガレットにそう告げてくる。
悪いようにはしない。
それは、とてもいい響きの言葉だ。しかし、契約結婚と言っている時点で愛される未来はないのではないだろうか。一瞬そう思い、心が狼狽える。
(でも、家のことを考えると……)
少なくともいい話であることに、間違いはない。けれど、マーガレットにはたった一つだけ懸念点があった。それこそ――クローヴィスの噂である。
「あの、一つ、よろしいでしょうか?」
恐る恐るとばかりに手を挙げてそう告げれば、彼は「どうしたの?」と柔和な笑みを浮かべてマーガレットのことをまっすぐに見つめてくる。その目は純粋そうであり、人に邪な感情を一切抱かないような人種にも見える。
そんな彼を見つめ、マーガレットは意を決して口を開く。彼の噂の真偽を確かめるために。
「クローヴィス様には、男色家であるという噂がございます。……それは、真実なのでしょうか?」
震える声でそう問いかければ、彼はにっこりと笑う。その笑みはこの場には不釣り合いなほどにきれいであり、思わずマーガレットはその笑みにくぎ付けになってしまった。
もしかしたら、この噂はただの噂なのかもしれない。実際の彼の恋愛対象は女性であり、結婚しないのは好みの人がいないから――という可能性だって捨てきれないのだ。
「それはね、内緒」
でも、マーガレットのその微かな思いはほかでもないクローヴィスによって握りつぶされる。彼は自身の唇に人差し指を当て、お茶目な表情でそう答えた。……それは、まるでその噂を肯定しているかのようだ。
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