1169人が本棚に入れています
本棚に追加
「マーガレット様。クローヴィス様がいらっしゃいました」
一人悶々と考え込んでいれば、控室の扉がノックされシスターにそう声をかけられた。
そのため、マーガレットは「どうぞ」と返事をする。すると、一人の美しい男性が顔を見せた。
いつもとは違い撫でつけられた漆黒色の髪と、鋭い漆黒色の目。背丈は高く、顔にはいつも通りのにこやかな笑みが浮かべられている。
「マーガレット嬢。この度は、結婚話を引き受けてくれて感謝するよ」
彼はにっこりと笑ってそう告げる。
その口調はまるでビジネス現場での取引のようなものだ。そう思ってしまうが、その考えもあながち間違いではない。
「こちらこそ、実家への援助感謝しますわ。おかげさまで、お父様も弟も無事生活が出来ております」
立ち上がり深々と一礼をすれば、クローヴィスは「かしこまらなくてもいいよ」と優しく声をかけてくる。
「キミには今後とも利用価値があると思っているからね。……どうか、よろしく頼むよ」
「はい。私とて、与えられたお金の分はしっかりと働かせていただきます」
どちらともなく微笑み合い、そんな会話を交わす。
その後、しばらくしてクローヴィスはゆっくりと口を開いた。
「――じゃあ、行こうか。……俺の、契約上の妻」
マーガレットの手を取り、クローヴィスは微笑む。その微笑みは、見惚れてしまうほどにとても美しいものだった。
最初のコメントを投稿しよう!