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かつかつと大きな足音が屋敷の中に響き渡る。
ボロボロの扉を無理やりこじ開け、この子爵家の娘であるマーガレットは父の執務室に怒りの面持ちで足を踏み入れた。
「お父様ー!」
叫ぶように父のことを呼べば、父――アードルフは露骨に耳をふさぐ。
その目には煩わしさではなく怯えが色濃く宿っており、彼は背中を丸めながらマーガレットから逃げようとする。
しかし、そんなアードルフの肩を乱暴につかみ、マーガレットは「また、まーた詐欺に引っ掛かられたのですね!?」と詰め寄った。
「だ、だってぇ……」
「だってぇもクソッたれもありませんわ。……この子爵家の財政状況を分かったうえで投資詐欺に引っ掛かるなど、バカのやることです」
肩をすくめながら、マーガレットは自身の手元にある借用書を見つめる。
その金額、庶民の給金約三年分。全く、これではこのまま生活をすることさえ危ういじゃないか。
そう思いマーガレットがため息をつけば、アードルフは「……だってぇ」と意を決したように告げる。
「我がアストラガルス子爵家は貧乏じゃないか。貴族が成り上がるためには、それこそ金かコネか……」
「生活費を詐欺に突っ込んだ、愚かなお父様が何をおっしゃっても無駄ですわ」
プイっと顔を背け、マーガレットはアードルフに「こちら、何とかなさってくださいませ」と言って手元にある借用書を突きつけた。
そうすれば、アードルフは「た、助けてくれぇ……!」とマーガレットに縋る。全く、娘に縋るなどプライドがないのか。内心でそう思い舌打ちしそうになるのを我慢しながら、マーガレットは「いいですか?」と一旦前置きをする。
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