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「このままでは、我がアストラガルス子爵家は没落、もしくは夜逃げの二択を迫られてしまいます」
「……えぇっ」
「えぇっ、じゃありませんでしょう!? むしろ、もうすでにその状況に片脚どころか首まで突っ込んでおります」
ゆるゆると首を横に振りながらマーガレットはそう言う。
すると、アードルフは「な、なんとか、何とかしなくちゃ……!」と言いながら慌てふためいていた。
アードルフのその姿を見つめながら、マーガレットはため息をつく。
マーガレットは物心ついたころからわかったのだが、どうにもこのアードルフには貴族としての才がないらしい。代々貧乏子爵家ではあったものの、マーガレットが幼い頃はまだここまでではなかった。
状況が悪化したのは……マーガレットの母が亡くなったことが原因だ。
マーガレットの母は気弱で詐欺に引っ掛かりやすいアードルフの手綱をしっかりと握り、彼が変な行動を取らないようにと監視してきた。そのため、まだ当時はマシだったのだ。
しかし、マーガレットの母はマーガレットの弟を産んだ後の状態がよくなく、そのまま儚くなってしまった。彼女は最後の最後に「あの人は……本当に、本当にダメだから……」とマーガレットに呟いたのを、よく覚えている。
(お母様にお父様のことを任されているとはいえ、この状態が続くのならばいっそ夜逃げした方が楽だわ)
内心でそう思い悪態をついていれば、アードルフは「どうしよう、どうしよう……」と言いながら狼狽え続ける。
だが、それからすぐ後に「あっ!」と零して手をパンっとたたいた。
……あぁ、何となくだが嫌な予感がする。
そう思いマーガレットが顔をしかめれば、彼は「マーガレットが良いところに嫁げばいいんだよ!」と言って表情を明るくし、そのままマーガレットに詰め寄ってきた。
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