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「実は、数日後にトマミュラー侯爵家で舞踏会が開かれるんだ。そこに招待されていてねぇ」
「……こんな貧乏子爵家の元に、招待状が?」
「……そういう言葉は、慎んでくれないかい?」
アードルフは少しがっかりとしたような表情を一瞬だけ浮かべるものの、すぐに「それでだね」と続ける。
「そこでマーガレットにいい男を捕まえてもらえばいいんだよ!」
……やっぱり、ろくなことじゃなかった。
そう思いその端正な顔を露骨に歪めるマーガレットに対し、アードルフは「頼む、本当に頼むんだ!」と言いながらまたまた縋ってくる。
「マーガレットの言う通り、このままだとうちは夜逃げか没落だ。先祖代々続いたこの家を、私の代で絶やすわけにはいかないだろう?」
その原因は一体どこの誰が作ってきたんだ。
そういう意味を視線に込めてアードルフを見つめれば、彼は「……ははは」と言いながら渇いた笑いを零す。
「お、お前だって、弟が可愛いだろう? あの子が苦労するようなことは、あってはならないだろう……?」
「……根本の原因を作ったのは、お父様ですけれどね」
冷たい視線でアードルフを見つめてそう言えば、彼は「ま、まぁまぁ!」と言ってマーガレットの肩を力いっぱい掴んでくる。
「頼むから頑張っていい男を捕まえてきてくれ!」
アードルフが満面の笑みでそう繰り返す。
だからこそ、マーガレットは天井を見上げた。そこには雨漏りの跡があり、「あぁ、この屋敷もついにがたが来たのかぁ」と心の中で思う。
それは、一種の現実逃避だった。
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