1179人が本棚に入れています
本棚に追加
(あぁ、本当に最悪だわ。……恨むわよ、お父様……!)
内心で悪態をつきながら、マーガレットは舞踏会の会場であるトマミュラー侯爵邸にやってきていた。
淡い緑色の落ち着いたデザインのドレスと、大ぶりの髪飾り。銀色の髪は軽く結い上げ、何処となく上品な印象を醸し出す。
マーガレットのこの装いを見たアードルフは、「おぉ、これならばいい男が捕まりそうだ!」と歓喜していた。
しかし、当の本人であるマーガレットからすれば冗談じゃない。母のお古である靴のサイズは微妙に合っていないし、こんな装いでは下に見られるのは目に見えているじゃないか。なんといっても、主催者は侯爵家なのだから。
予想通りというべきか、周囲のマーガレットを見る視線はあまり心地のいいものではない。視線を向けられるだけならばまだ我慢できる。が、マーガレットに視線を向けてこそこそと会話をされるのはちょっと傷つく。
「ねぇ、あのお方ってアストラガルス子爵家の娘さんですわよね……?」
「あぁ、あの投資詐欺に引っ掛かってさらに貧乏になったとかいう」
こそこそとした話し声の内容は嘲笑がほとんどだ。その言葉に一々耳を傾けることも出来ず、マーガレットは露骨にため息をついた。
「もしかして、いい男でも捕まえて成り上がりを狙っているのではないかしら?」
「そうだとしても、あの地味な装いでは無理ですわよ、おほほ」
夫人たちのそんな会話を聞いて、マーガレットは内心で「正解です」と答える。
婚活をするのならばもっと目立つような装いをしなければならない。婚活とは目立ってなんぼ。男性の目に留まらなければ意味をなさないのだ。
(……お母様。もう、本当に無理かもしれません)
天井を見上げ、空にいるであろう母にそう零す。少なくとも、マーガレットは今まで必死にやってきたつもりだった。だが、アードルフがあんな感じである以上、マーガレットにも限界というものが来てしまうのだ。
最初のコメントを投稿しよう!