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「……ジビレ、一つ、いいかしら?」
「どうぞ」
「旦那様は、ご無事かしら……?」
恐る恐るそう問いかければ、ジビレは「はい」と言ってそのあまり動かない表情をほんのりと緩める。それに、マーガレットはほっと息をついた。
「侍医にも見ていただきましたが、三日ほど安静にすれば調子は元に戻ると言うことでございます」
「……そう、よかったわ」
クローヴィスが無事なのならば、自分も身体を張ったかいがあったというものだ。
内心でそう思いながらマーガレットが胸をなでおろしていると、ジビレは「奥様も、ご無事でよかったです」という言葉をくれた。
「なんでも、旦那様に……その」
「言わないで頂戴。でも、必要なことだったから」
マーガレットがそう言えば、ジビレは「ありがとうございます」と深々と頭を下げた。それはきっと、使用人を代表しての言葉だろう。
そう思いながらマーガレットが息を吐いていれば、今度は扉がノックされた。
「……旦那様でしょうか?」
ジビレが小さくそう呟くので、マーガレットは「通して頂戴」と零す。そうすれば、ジビレは「かしこまりました」と返事をくれて、寝室の扉を開けに動いた。
「あぁ、ジビレ。ここにいたんだね」
扉の方から聞こえてくるのは、クローヴィスの声だった。その声音は元気そうであり、どうやらもう回復しているらしい。それにマーガレットがもう一度胸をなでおろしていれば、カーテンの扉が開きクローヴィスが顔を出す。
「マーガレット、大丈夫?」
彼はいつも通りの柔和な笑みを浮かべてそう問いかけてくる。……眠る目に見た彼の目は、恐ろしいほどに欲情していたというのに。今の彼からはそんな表情がこれっぽっちも見えない。
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