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(……私と交わるの、嫌だったのね)
冷静に考えれば、それは当然なのだ。契約的に娶った妻と交われば、関係に少なからず影響を及ぼす。今までは契約上の夫婦として過ごせていたものが、過ごせなくなってしまう。
……マーガレットだって、それは嫌だ。
だけど、それ以上に。ショックなのかもしれない。クローヴィスがそこまでマーガレットのことを、愛していなかったという現実が。
(女々しい考えは、捨てなくちゃ)
その後、自分自身にそう言い聞かせ、マーガレットはぎこちなく笑う。
そうすれば、クローヴィスは露骨に顔をしかめた。もしかしたら、マーガレットが無理に笑っているということに気が付いたのかもしれない。その痛々しいものを見るような目が、マーガレットの心を余計にえぐる。
「……あのさ、マーガレット」
それからしばらくして、クローヴィスは意を決したように口を開く。
そのため、マーガレットが「どう、しましたか?」と震える声で問いかければ、彼は何を思ったのだろうか。
「……俺、考えたんだ」
と告げてくる。
「俺のことを助けようとしてくれて、マーガレットは身体を預けてくれたんだよね?」
一応確認とばかりにそう問われ、マーガレットはこくんと首を縦に振る。クローヴィスに何かがあってはいけない。その一心で、自分の身を挺して彼を助けた。
が、それはもしかしたら彼にとって有難迷惑だったのかもしれない。その可能性に、今更ながらに気が付く。
「……そっか。ありがとう」
けれど、彼がそう言って笑うものだから。そんな気持ちは一気に吹き飛んでしまった。
彼のその何処となく無邪気な笑みを見ていると、胸の奥がきゅんとする。先ほどまでの胸の痛みを消すかのように、心がとくんと音を鳴らす。
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