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小首をかしげてそう問えば、彼は「そう」と端的に返事をくれた。
「マーガレットも知っているかもしれないけれど、オルブルヒ公爵家の領地の特産品はレモンなんだ。領地に行けば、美味しいレモンのスイーツとかが食べられるんだけれど……」
クローヴィスが眉を下げながらそう言う。もしかしたら、彼はこれがマーガレットへのお礼になるかどうか、悩んでいるのかもしれない。
それがわかるからこそ、マーガレットは「……いいですね」と控えめな声で言葉を発する。
「パイとか、あります?」
「あるよ。何だったら、レモンの紅茶もある」
「わぁ、すごいですね……!」
何となく、心が弾む。先ほどまでのちょっと悶々としたような気持ちが完全に抜け落ち、マーガレットは笑みを浮かべてしまった。
そんなマーガレットの気持ちに気が付いたのか、クローヴィスは「一週間後に、行こうか」とにっこりと笑って言ってくれた。
「だから、もう少しゆっくりとしているといいよ」
それから、彼はそういうとマーガレットの髪を優しく撫でる。その手の感触がとても心地よく感じられてしまい、マーガレットはそっと目を閉じた。
……なんだろうか、この触れ方は。
今までとは、違うような気がする。
(なんて、自意識過剰もいいところだわ。抱き合ったから愛されるなんて、所詮物語の中だけのお話なのよ)
その証拠に、クローヴィスはマーガレットのことを好きだとか、愛しているとか。そういうことは、言わない。
……結局、一度だけの関係だったのだ。そう、思った。
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