意識しているのは私だけ?

3/4
前へ
/204ページ
次へ
 彼のたくましい腕が腰に回され、マーガレットの頬がカーっと熱くなる。  でも、クローヴィスの表情はいつも通りだ。どうやら、マーガレットのことを気遣ってくれただけらしい。  それがわかるからこそ、マーガレットは悔しくなる。あの行為で意識をしたのは自分だけなのか。そう思ってしまって、下唇をかみしめてしまう。  しかし、すぐにハッとして「大丈夫、です」とにこやかな笑みを浮かべてクローヴィスに返事をした。 「そっか。……もうちょっとしたら道が荒くなるし、こういうことも増えるからね。……俺にくっついていても、いいよ」  そう言うとクローヴィスはマーガレットの細い腰を抱き寄せ、自身と身体を密着させる。その所為で、マーガレットは変に意識をしてしまってびくんと身体を跳ねさせてしまった。……これでは、意識していることがバレバレだ。 「マーガレット?」  長い間俯いてしまっていたからだろう。クローヴィスが怪訝そうにマーガレットの顔を覗き込んでくる。その漆黒色の目に射貫かれて、何とも言えない感情がふつふつと湧き上がってくる。  そのたくましい腕も。漆黒色の美しい目も。その肌を見るだけで、心がふつふつと沸き立つ。……あのときの行為が思い起こされ、マーガレットはそっと視線を逸らす。 (って、ここ一週間ずっとこうじゃない。そろそろいい加減、慣れなくちゃ……)  あれ以来、マーガレットとクローヴィスの間に進展はない。むしろ、クローヴィスはマーガレットを抱いてからも、抱く前と扱いを一切変えないのだ。変に関係が変わるよりはずっとマシだが、こうなるとやはり意識しているのは自分だけなのかと思ってしまう。 (旦那様は男色家ではないわ。……だったら、少しくらい私のことを意識してくださっても、いいのではなくて?)  そう思っても、口に出すことは出来ない。重い女だと思われるのが嫌だったし、何よりも二人の関係は契約的なもの。雇い主と雇われた者なのだ。雇われの身である自分が、変に口を出すことは出来ない。
/204ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1193人が本棚に入れています
本棚に追加