地味目女子

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地味目女子

 俺はスペック的(チビ。デブ。ブサイク。頭悪い。貧乏)には救いようが無いが、中身は至っては健康かつ健全な男子だ。  普通に性欲もあるし、恋愛にも憧れがある。あの八重歯の神様によってこの世に男は俺一人となった。  神様が言った通り、俺が望めばハーレムも思うがままだろう。だが、俺は欲望を抑え込み俺の周囲に群がる女達に毒舌を浴びせ続けた。  その痛快さと言ったら無かった。俺を見下し続けた女共の傷ついた表情を見るたびに、過去の惨めな自分が救われる感覚を覚えていた。  秋晴れの今朝も、通学の途中から自分の席に座るまで俺に近づいてくる女達を罵って一蹴して来た。 「お早う。草臥(くたび)君」  既に着席していた隣の女子が声をかけてきた。声の主は畑美香。眼鏡をかけたクラス内でも地味目女子だ。  本来なら女子の挨拶など失笑して無視するところだが、俺は畑美香に対して普通の挨拶を返した。地味目女子畑美香は、まだ世界が変わる前、つまり俺が男女から虐げられていた頃から俺に話しかけてくる稀有の存在だった。  話しかけると言っても先刻の挨拶程度だったが、クラスで孤立していた俺には畑美香の行動はとてつもない意味があった。    誰かに話しかけられると言うのは、そこに居ていいと存在を認められるという事だ。少なくとも畑美香は俺と言う存在を許容してくれたのだ。  そんな畑美香に対しての感謝の念を俺は決して忘れていなかった。俺が畑美香に挨拶を返した瞬間、クラス中がざわつき始めた。  地味目女子に女達の視線が集まる。羨望、嫉妬、好奇心。俺はそれらの空気に辟易しながら、畑美香の沈んだ表情に気付く。 「······畑さん。なんか元気無いね。体調でも悪いの?」  俺は畑美香にそう問いかけた。以前なら自分から女子に話しかける事など決してしなかったが、世界でただ一人となった男のアドバンテージが俺をそうさせていた。 「······え? う、うん。田山君······ううん。突然行方不明になった男子達は無事かなって」  畑美香が言いかけた固有名詞に俺はピンと来た。 田山秀人。クラスメイトだった地味目男子であり、畑美香の彼氏だ。  田山秀人も俺に挨拶くらいはしてくれる優しい男子だった。外見が地味同士の畑と田山を「地味カップル」と陰口を叩く連中を見た事があり、俺は苦々しく思っていた。  ······そう。畑美香が言った通り、世界から消えた俺以外の男達は行方不明扱いになっていたのだった。  
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