声の芝居で食べていくためなら

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「今日は、どんなことがしたいですか?」  声優に転職したら、どうですか。  そんなことを言いたくなるくらい素敵で素晴らしい声に聞こえるのは、今日も私が卯花さんに惚れこんでいるから。 「どんなことをされたいですか?」  性格がいい人を相手にするっていうのは、相手を負かすことができないということでもある。  卯花さんの言葉に全力で甘えてもいいんだっていう安心感を抱くことができるけど、私は卯花さんの幸せに繋がることが何もできていないという敗北感も同時に味わう。 「卯花さんっ! 手が空いているなら、引っ越しの荷物を解いてくださ……」  段ボールに手をかけた右手が包みこまれる。  何に包み込まれているかなんて、確認するまでもない。  卯花さんの手の温かさを感じると、卯花さんの手から伝わってくる熱を意識し始める。 「初めての同棲に、結構浮かれているんですよ? こう見えて」  なんて嬉しすぎる言葉をプレゼントしてくれるですか、私の彼氏は……! 「明莉さんに甘えていただくのは後の楽しみにして、作業に戻りましょ……」 「卯花さん! 抱きしめてもいいです……」  いいと許可をくれる前に、卯花さんは私を抱きしめてくれる。 「好きです、明莉さん」  私には、もったいなさすぎるくらいの言葉を贈ってくれる卯花さん。  きっと私の表情は、今にも泣いてしまいそうになっていると思う。  やっていることも、発している言葉も、見せてくれている表情も、すべてが幸せ過ぎて泣きたくなる。 「私も……」  人を好きになる気持ちを、否定してきた。  私には、誰かを好きになる資格なんてないと自身を否定してきた。 「卯花さんのことが大好きです」  卯花さんは、恋をすることは凄く素敵なことだってことを教えてくれた。  思い直すことが、できた。 「俺たち、両想いですね」 「はいっ」  泣きそうだった私の表情が、綺麗な笑顔に変わっていますように。
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