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「私にはとってキャラクターは、私の命そのものです」
プロデューサーに想いをぶつけたところで、何も変わらない。時間は戻ってこない。
大好きだった作品に触れる、大好きだったあの時間に帰ることはできない。
「渡谷さんの作品への愛情は、キャラクターを通して必ずユーザーに届けなければいけないと思っています」
作品との別れが辛いのなら、それこそ声優を辞めてオタク業界から遠ざかって別の人生を歩むという道もある。
愛されない作品に携わるくらいなら、作品への思い入れをすべて捨てて声の芝居に打ち込むという道もある。
「あー……、こんなにかっこいいこと言っていても、声優としてはみっともないですよね」
「みっともないかは分かりませんが……かっこよくても格好が悪くても、俺は渡谷明莉さんの考え方が好きですよ」
「……ありがとうございます」
それでも、彼女は作品を向き合う道を選んだ。
作品に深すぎる愛情を注いで、結果寂し想いに苦しむ道を選んだ。
その、彼女が選んだ道を尊重したい。
「本気の恋をしているみたいで、妬けてしまいます」
渡谷さんの優しさに泣きたいのか、渡谷さんの作品への気遣いに泣きたいのか。
それともプロデューサーとして、演者に悲しい想いをさせていることが情けないのか。
とにかく、自分の心の中は多くの色が混ざり合っている状態だった。
「卯花さんでも……やきもち焼くんですね……」
「一応は、明莉さんの彼氏ですよ」
でも、そういった未練とか悔しさとか。
そういう感情を無理に忘れる必要はなくて、糧にしていけばいいと彼女の言葉は俺の人生を励ましていく。
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