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高能訪問編⑦
「先ほどの話の続きですが・・・」
高能は真剣な顔付きになった。
「その前に」
すると突然、一幡が話を遮った。
「出かける前に私はあなたと二人でいたいと言ったでしょう?それは、改めてあなたと向き合って話し合ってみたいと思ったからなの。・・・私たちの婚姻について」
一幡の目は今までの柔らかい雰囲気ではなくどこか凜々しい目つきになった。
「・・・私は別にいいの。あなたさえその気なら・・・父も母もこの縁談にとても乗り気だし、私だって早く親を安心させたい気持ちは残っている。」
予想外の発言に思わず高能はじっと一幡の顔を見つめた。
「・・・姫は私に好意を抱いてくださったのですか?」
「・・・好意・・・そう言われるとよくわからない。確かにあなたのことは嫌いではないけど・・・」
「では、なぜ婚姻を受け入れて良いとおっしゃるのです?」
「・・・父や母が言うように私に妻としての役目を果たせる気力はないから、他家に嫁いで迷惑をかけるよりも親族であるあなたの家に嫁ぐ方が良いって私も思うんです。あなたならきっと私の気持ちも受け入れてくれる。もしかしたらあなたを恋い慕う未来もあるかもしれないと思ったから」
これまで高能が接してきた一幡の様子からは予想できないような台詞が一幡の口から出たので高能は頭がこんがらがってきた。
「・・・私はあなたさえ良ければあなたを妻にしても良いと考えています。最初はこんな縁談、上手くいかないならさっさと破談にして早く京に帰りたいと思っていましたが・・・あなたの面倒くささなら支えてあげても良いと思いました。まぁ、こんな短期間だから正直恋愛感情を抱くまでには至っていませんが、きっといつか好きになれると思います。」
「・・・面倒くさいって・・・それがあなたの本音だったのね」
どうやら一幡はその一言に反応してしまったらしい。
「・・・いや。良い意味で面倒くさいと申しているのです。悪い意味だったらきっと妻にしたいと思わないし…」
「…とにかく、これで婚姻が成立ってことですね」
そう言いながら一幡は高能の手を握ろうとした。
「でも、」
高能は一幡に握られそうになった手を引っ込めた。
「それで、姫が幸せに感じるかは別です。そこにいる者も。」
すると雨宿りをしていた民家の曲がり角から幸氏が出てきた。
「ばれていましたか…」
幸氏が高能を見ながら言った。
「…どうも姫は仕方なく私に嫁ごうとしている気がするんですよね。こいつ、嫌いではないからとりあえずいいかみたいな感じで。まぁ、あなたが私に振り向いてくださらなくても全然良いのですが…果たしてそれであなたは幸せに感じるのでしょうか。小太郎、お前はどう考える?」
すると高能は今まで大して話したことのなかった幸氏にそう声をかけた。
「え・・・?」
幸氏はとても驚いた顔をしたが、すぐに高能の意図を読み取り、咳払いをして話し始めた。
「・・・私は亡き義高様から姫様を託された身です。姫様の幸せが私の幸せ。あなたが姫様を幸せにしてくれるのなら私に異論はありません。」
相変わらずの静かな表情で幸氏は答えた。
「姫にとって私の妻になることは幸せか?」
今度は高能は一幡の方を向いてきた。
「・・・」
改めてそう聞かれると正直言って一幡にはよくわからなかった。高能はきっと自分を無下に扱わない。妻としての役目を十分に果たせなくてもきっと自分を責めてきたりはしないし、高能の家族も事情をわかっているなら高能の家は過ごしやすいかもしれない。しかし…
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