年下の男の子

14/15
前へ
/330ページ
次へ
「…すいません。そうだったらいいな、って思っただけです」 彼は少し反省するようにうつむいて、そう言った。 そうだったらいいな…そうだったらいいな… 私は彼の言葉を心の中で反芻して、一人喜んだ。そして、そんな「恋をしている」自分に気づいて愕然とした。 「でもなぁ、結婚してるんだもんな。とっくに。独身のときの川田さんに会いたかったよなぁ。もしもですよ。大学生のときの川田さんに会えてたら、俺に勝ち目ありましたか」 あったよ。そりゃあ、あったわ。 私が先にゾッコンになってしまって、君のほうが見向きもしてくれなかったかもね。 私は心の中でそう答えたが、口から出てきたのは別の言葉だった。 「私が今の佐原くんと同じ歳のとき、佐原くんは9歳ね。小学校…3年生?ええと、私が大学に入学したころは、佐原くんは6歳。ピカピカのランドセル背負って走ってたのね。可愛かったろうなぁ」 彼は一瞬私に、傷ついたような眼の色を向けた。 仕方ないじゃない。だって…12歳差ってそういうことよ。
/330ページ

最初のコメントを投稿しよう!

284人が本棚に入れています
本棚に追加