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「…すいません。そうだったらいいな、って思っただけです」
彼は少し反省するようにうつむいて、そう言った。
そうだったらいいな…そうだったらいいな…
私は彼の言葉を心の中で反芻して、一人喜んだ。そして、そんな「恋をしている」自分に気づいて愕然とした。
「でもなぁ、結婚してるんだもんな。とっくに。独身のときの川田さんに会いたかったよなぁ。もしもですよ。大学生のときの川田さんに会えてたら、俺に勝ち目ありましたか」
あったよ。そりゃあ、あったわ。
私が先にゾッコンになってしまって、君のほうが見向きもしてくれなかったかもね。
私は心の中でそう答えたが、口から出てきたのは別の言葉だった。
「私が今の佐原くんと同じ歳のとき、佐原くんは9歳ね。小学校…3年生?ええと、私が大学に入学したころは、佐原くんは6歳。ピカピカのランドセル背負って走ってたのね。可愛かったろうなぁ」
彼は一瞬私に、傷ついたような眼の色を向けた。
仕方ないじゃない。だって…12歳差ってそういうことよ。
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