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彼は昨日、夕方の飛行機で札幌にやってきたらしい。驚いたことに、芳夫に住所を聞いて既に実家にも訪れたという。
「実家、行ったの!?」
「うん。沙耶さんに了承を得るよりも一足早く、お父さんにご了承いただきましたから」
「え…?」
「『沙耶さんを僕にください』って。お父さん、泣いてくれたよ」
隆くんがいたずらっぽい表情をしている。
「そんで、お母さんにこのペンションの住所と電話番号聞いて、ソッコーで電話。昨日の夜は実家に泊めてもらって、今朝の朝イチのバスで飛んできた。今夜はこの部屋に移ってもらうよ。ほらみて。ダブルベッド!」
「もう…もう…。隆くんは……」
私は泣きながら言った。
「意表突くだろ? 俺って」
彼はなんだか自慢げだ。
「正直言って、隆くんが私のために、ここまでしてくれると思わなかった。きっとしばらくは悲しむだろうけど、すぐに私のことなんて思い出にしてしまうって……」
彼は私をドアに押し倒すと、唇を塞いだ。
「まだわかんないの? もうとっくに、君に人生捧げる覚悟してるんだ。観念しなさい」
その低い声はハッとするほど大人びて聞こえた。至近距離で見る彼の顔は少し痩せたようで、精悍さを増している。もしかして私のことが心配で、食事が喉を通らなかったのだろうか。
申し訳なさで胸がいっぱいになると同時に、こんなにも素敵な男性が私を好きでいてくれるという事実に、感謝の想いが込み上げる。
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