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そのとき事務所の戸が開いて、佐原くんが入ってきた。
「お疲れ様です!」
社長がその声に振り向くと佐原くんは就職活動のお手本のように綺麗なお辞儀をした。
「はじめまして。先月からこちらでお世話になっています、中陵大学の佐原隆と申します」
良く通る声での挨拶が堂々としたものだ。
「君が佐原くんだね。話は聞いてるよ。良くやってくれてるそうじゃないか」
「ありがとうございます。社会勉強をさせていただいています」
「君、3年だろう。そろそろ就職活動じゃないか?どうだ。うちの会社で働いてみないか」
すると、佐原くんは人懐こい笑顔を浮かべ
「そんな風に言って頂けて、光栄です。生意気なのですが、僕には将来、小さくても自分の会社を持ちたいという夢がありまして、一代で会社を興した澤田社長には憧れています。お会いできてとても嬉しいです」
隣の席の事務員、郷田さんがそっと私の耳元で囁いた。
「佐原くん、さわやか~~…」
社長はますます上機嫌で
「そうかそうか!いや、君はなかなか見どころがありそうだな。今度酒でもどうだ。いけるクチなんだろ」
佐原くんの背中をバシリバシリと叩いている。
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