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社長が事務所を後にすると、郷田さんが再び囁いた。
「佐原くんっていいよねぇ。イケメンだし度胸はあるし、しかも人懐こくて。あれは将来、大物になるよ。娘の婿に欲しいタイプよね」
私はとっさに返答できず、郷田さんの愛嬌のある丸い目を見つめた。
郷田さんって、たしか私の3つ上、36歳だ。小学生の娘さんが2人いる。そうか。同世代でもお子さんがいるとそういう考えになるわけね。
…いや、子供のある無しに関わらず、私だってとっくに郷田さん側の人間だ。結婚しているし、歳は一回り離れているし。間違っても佐原くんにドキドキなんてしたらいけない。そういう立場の人間なんだ。
「あ、ごめん。川田さんはまだそういう歳じゃないわよね?アラサーだもんね。誰でも自分と一緒にしたらいけないね」
カハハッ、と笑って郷田さんは席を立ってしまった。私は曖昧な笑みを浮かべてその後ろ姿を見送る。
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