遭遇

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沙耶さんを促し、先に店から出てもらう。俺は会計を済ませながらチラリと旦那と相手の女性に目をやった。 この場所からは二人の横顔しか確認できない。旦那は沙耶さんより7歳上と言っていた。仕立ての良さそうなグレーのスーツに、品良く整えられた短い髪。まっすぐに伸びた背筋。会社でそれなりの地位にある人物であることは佇まいから伝わってくる。相手の女性に向ける笑顔は、彼がとてもリラックスしていることを物語っていた。 女性のほうは沙耶さんよりは少し年上だろうか。ゆるやかなウェーブのかかった長い髪を耳にかけ、片方の肩から垂らしている。横顔が彫刻のように美しい。真紅のワンピースは艶やかなバラの花を連想させた。 店の外にでて、沙耶さんの元に向かった。 「お待たせしました。とりあえず場所を変えましょう。『疲れたからもう帰る』なんて言わないで下さいよ」
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