Ⅵ 宴の鍋

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「そいえば(おか)に上がってからだいぶ経つガ、次の獲物ハまだ見つからないネ?」  と、そんなマルクに思い出したかのようにして、自身もヤギ肉に箸を伸ばしつつ露華が尋ねた。 「ああ、それなんだけどね。ようやく目ぼしい情報が耳に入ったよ。今度、『黒い雄鶏』っていう魔導書が、エルドラニア本国からこっちに運ばれてくるらしい……てことで、次の獲物はそれだ」  その言葉に、マルクは不意に船長(カピタン)の顔を取り戻すと、不適な笑みを浮かべながらそう答える。 「なんだ、ヤギ肉の次は鶏肉か。ま、俺は呑めりゃあ文句ねえがな」 「鶏肉なら辰国料理にはたくさん食べ方あるネ」  それにリュカと露華は勘違いしているか? それともわざと冗談めかして言っているのか? そんな魔導書の名前を弄って各々に合いの手を入れる。 「久々の戦働きにござるな。このマチェーテで鍛えし我が剣の腕、広く新天地の海にも轟かせてくれようぞ!」 「そうなると旦那さまの装備も総点検しとかなきゃいけないな……マリアンネ、頼んでた盾の改造も早めに頼むよ?」  かたやキホルテスは不意に立ち上がると、まだ持っていた山刀を引き抜いて意気揚々と天に掲げ、サウロは難しい顔で腕組みをすると、海賊仕事のための準備に早くも心を砕いている。 「うん。もうじき完成だから安心して。ついでにわたしも新発明の爆弾用意してるから乞うご期待だよ!」  また、サウロに催促されたマリアンネは大きく頷くと、自身の趣味と実益を兼ねた発明に目をキラキラとさせて盛り上がりを見せる。 「…………」  そして、彼女の背後に立つ土の巨人ゴリアテは、いつもながらに相変わらず無口だ。 「よし。それじゃあ、次なる仕事の成功を祈って、もう一度、みんなでかんぱーい!」 「かんぱ〜い!」  こうして、新たな目標も一味全員で共有されると、船長(カピタン)マルクの音頭によって、再度の乾杯の声を南国の夜空に響かせるのだった。 (El Pirata De Vacaciones ~休日の海賊~ 了)
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