Ⅵ 宴の鍋

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「──かんぱ〜い!」×6  濃紺の夜空にモクモクと香ばしい煙を上げ、漆黒の闇の中、橙色(オレンジ)の炎に石壁を照らし出す朽ちた要塞の中庭……何やら鍋を逆さにひっくり返したような、半球状をした鉄板の上で焼かれるヤギ肉をぐるりと取り囲み、秘鍵団の面々はグラスを掲げて高らかに乾杯をする。 「これハ遊牧民の王の称号が名前ニ付けられた、ヤギや羊の肉を使う〝大ハーン鍋〟ネ。ま、鍋というヨリほぼ焼き肉だけどナ。ちなみに戦場デ兜ヲ鍋代わりに肉ヲ焼いた習慣ガ、其の起源ト云われてるネ」  皆がグラスのワインに一口つけた後、露華がその料理の説明を手短にする。  そう言われてよくよく見れば、その半球状の鉄板は〝キャバセット〟と呼ばれる、エルドラニアなどでよく用いられている当世風の庇がない兜である。 「遊牧民の兵といえば、馬を自在に乗りこなすいわば東方の騎士……そう思うとなんだか親しみの湧いてくる料理にござるな」 「兜を鍋に……確かに戦場じゃ便利だけど、後片付けが大変そうだな……」  その解説に、ドン・キホルテスとサウロは騎士・従者それぞれの立場から素直な感想を口にしている。 「それじゃ、いっただきまーす! …モグモグ……うん! なかなかこれ美味しいよ、華ちゃん! この半球状をした兜の熱伝導率が肉の美味しさを引き出してるのかな?」 「……モゴモゴ……ああ。酒にもよく合うな……ゴクン……このハーゲンティとかいう悪魔の造ったワインともいいマリアージュしてるぜ」  また、さっそく食したマリアンネも錬金術師らしいところに興味を示し、呑兵衛のリュカはやはり肉よりも、ともに供されるワインをメインに食レポをしている。  ちなみにこの赤ワインはソロモン王の72柱の悪魔の内序列48番、酒造りが得意な有翼総統ハーゲンティという悪魔をマルクが使役して造らせたものだ。  気乗りしないハーゲンティに無理強いをし、けっこうな頻度で造らせているので、もう秘鍵団ではお馴染みの銘柄である。 「…モグモグ……うん。なかなかイケるね……辰国の北の遊牧民の国かあ……話には聞いたことあるけど、いつか実際にこの目で見てみたいな……」  一方、マルクはその肉料理を堪能しつつも、まだ見ぬ遠い異国の地へ想いを馳せている。
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