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坂上はボーカル兼キーボードとして、ボーカル兼ギターの福島とTAKU-KENというユニットを組んで活動している。大学で知りあい卒業と同時にデビューし、デビュー四年目の今年はソロ活動中だ。坂上はソロデビューアルバムに入る曲のアレンジを数曲、アズマに依頼していた。
アズマとの出会いは二年前、セカンドアルバムのレコーディング前だった。当時のプロデューサーがアレンジをやってもらうからと打ちあわせに連れてきた。部屋に入ってきた時の横顔に、思わず見とれてしまったのをよく覚えている。
坂上達より五歳上だという話だったが、アズマはその頃髪が長かったこともあり、年齢不詳の中性的な雰囲気で、坂上はきれいという言葉がぴったりの男性もいるんだなと思った。その印象は今も変わらない。気づくとつい、アズマを見つめてしまっている。
一方で坂上は、アズマに近づきすぎてはいけないとも思った。人目を引くルックスの上、作曲もアレンジもでき、特にピアノの腕前が評価されている。歌も歌える。それなのに、なぜアズマはデビューせず裏方に徹しているのか。福島が最初からアズマの才能に惚れこみ、手放しで褒め心酔する勢いだったから、自分は冷静でありたいという気持ちが強く働いたのかも知れない。
だがいつの間にか、こうなっていた。自分でも、そうとしか言いようがない。反発にも似た思いを抱きながらも、心ひかれる。自分とはあまりに違いすぎるから、羨望がそうさせるのか。アズマと関係を持って半年ぐらいになるが、欲しいという気持ちは強くなる一方だ。
しばらくすると、アズマは譜面から顔を上げ、指先で眼鏡を持ち上げた。
「どう?」
ミキシングコンソールの前の椅子に座った坂上が短く訊くと、アズマは小さくため息をついた。
「全然ダメじゃん? キー下げた方がよくない? コードの流れも悪いから変えないと。拓が歌うにはこれじゃキツいでしょ」
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