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 容赦のない言葉が、積み重ねられる。坂上は前髪を長めに作ったツーブロックの頭をかきながら、ただ苦笑するしかなかった。さすがに指摘が的確だ。  確かに、このキーでは歌いきれないかも知れないとは思っていた。コード進行もどうもよくないのは分かっていたが、どうすればいいのか悩んでそのままだ。アズマの反応と、どう変えるのかを見たいというのもあった。 「珍しいことしたね」  アズマは身体を起こして譜面をミキシングコンソールの上に置き、探るような視線を坂上に向けた。デモの段階でまず譜面を見せるなんてことは、これまでやったことがなかった。実は音源はある。聴かせていないだけで、この譜面はおまけ的に書いたものだった。 「まあね。いろいろ迷っててね。ごめん」  ごめん、の意味を、アズマは正確に察したようだった。ちらりと防音の分厚くしっかりしたドアの方を見て、唇だけで笑う。ソファにゆったりともたれる。悔しいが、とても魅惑的な笑み。 「こういう時間込みのギャラだから」  いい、と言う。冗談なのか本気なのか、はかれない言葉。完全に割り切られている。坂上はひそかに唇をかんだ。 「でも、こんなことしてていいの?」  アズマの隣に移動し、無言で抱き寄せると、素朴な疑問を口にする子供のようでいて少し冷たい声。 「俺なんか抱いて、拓のためになるの?」  耳もとでふふっと笑うアズマを、坂上は残酷だと思った。気高いと思った。  抱けば抱くほど、所有欲は乾き、ひび割れて悲鳴をあげる。在る次元が、違うのだ。分かっている。それでも。  かしゃり、と音をたて、はずされたアズマの華奢な眼鏡が、小さなミキシングコンソールの上で跳ねた。重ねられる唇。ソファが、きしむ。  坂上はメインフェダーを上げ、今アズマが否定した曲を再生させた。 「ああ、これ健介とやった方がいいね。健介が入ったら映えるよ」  かすれた声が薄っぺらいデモ音源と混じりあい、ようやく坂上の耳に届く。感情が一気に噴き上がる。
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