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目の前で書き換えられたコードは、同じメロディを劇的にあざやかに彩った。そんな数日前のことをぼんやり思い出しながら、坂上は二階の関係者席から開演前でざわつくアリーナ席を見下ろしていた。長年活躍しているバンドのツアー最終公演が、これから始まる。
坂上達には、一万人弱は入るこんな大きなライブ会場をいっぱいにできる動員力はまだない。坂上もソロアルバムを出したら全国の主要都市を回るツアーをやる予定だが、会場は二千人程度が入るホールで、ユニットでやっている時の半分程度の規模だ。それでも、チケットはまだ全然売れていない。
ソロ活動をしたいと言った時、事務所の社長・柴田を始め、多くのスタッフがまだ早いと反対だった。相棒の福島もだ。それでもなんとか事務所を説得してOKが出たが、ライブは東京と大阪だけにしてくれと言われた。納得できず、話しあいを重ねて今の規模で話がついた今、もう少しスタッフの言うことを聞いておけばよかった、という後悔が心の隅でわだかまっているのを、坂上は無視しきれずにいる。
初のソロ活動にも、ファンはシビアだった。TAKU-KENの魅力は、坂上の高く繊細な声と福島の低めで太い声が絶妙に絡みあうハーモニーだと、世間では言われている。当然ファンの多くもそこに魅力を感じているから、一人になってしまえば興味はないのだと気づかされた。ビジネスとして見ているスタッフ達は、そのあたりをしっかり見ていたようだ。
それに、ルックスがいかにも優しげで安心感のある福島のファンの方が多い。それは分かってはいたが、こうしてチケットのセールスなどの数字で現実を突きつけられると、なかなか堪える。
いつかは一人でも、このぐらいの会場を満員にできるようになりたい。坂上は改めて、野望を手のうちに握りしめた。
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