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「よう、隣いいか?」  突然の聞き慣れた声。さっぱりとした短髪、シンプルなTシャツとハーフパンツ姿の福島が、人なつっこい笑顔で立っている。その後ろには今日も黒ずくめのアズマ。 「おう、久し振り」  福島はゆったりした動作で坂上の右隣に座った。がっしりした体格で背も百八十センチ近くある福島は、やせている坂上やアズマに挟まれて余計に大きく見える。 「ちょうど受付でアズマさんと一緒になったんだ」  福島と会うのは一ヶ月ぶりぐらいだ。坂上のソロをやりたいという願いにつきあわされることになった福島は、自分はなにをしようかとしばらく悩んでいたが、複数のゲストを呼んでコラボレーションしたアルバムを作ることになっていた。 「アズマさん、アレンジ上がったの?」  坂上は、福島を挟んで右隣に座ったアズマの方に身を乗り出すようにして訊いた。 「当たり前だろ、アズマさんならそんなん秒だろ」  代わりに答えて胸を張る福島に、アズマが静かに笑う。 「秒はさすがに無理だけど、一応上がったから明日よろしく」  明日はアズマのピアノ録りもある。同時に上がってきたアレンジをチェックして、より詰めていく。作業がスムーズに行けば、明日はアズマをホテルに誘おうか。坂上はそんな考えにわずかに唇に笑みを乗せた。 「お前の方の進捗はどうなんだよ?」  坂上が言うと、福島はよく訊いてくれたと言わんばかりに途端にまぶしいほどの笑顔になった。 「いや、いろんな人と打ちあわせて詰めていくのは大変だけど最高に楽しいわ。ミニアルバムにしたのを後悔したよ」  素直に感情を出す福島を、坂上はうらやましくも疎ましくも思う。いかにも人のよさそうな笑顔と、がっしりした体格でのんびりしているのが熊を思わせると、福島はいつの間にかファンから「ふくくま君」と呼ばれて親しまれている。
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