自立したいオメガと二人のアルファ

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それはとても不思議な感覚だった。 これまで特に子供が好きだった訳では無く、望んだこともない。むしろ付き合った相手がいても出来ないようにしていた。 なのに・・・。 なんでこんなに嬉しいんだろう。 心の底から喜びが湧き上がり、幸せな気持ちに包まれる。まさか自分が妊娠するとは思っていなかったけど、妊娠したらこんなに幸せになるなんて知らなかった。 オレは手にした用紙をぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に捨てた。 中絶なんてありえない。 オレの中に生む以外の選択肢などなかった。 そうとなれば、これからどうしよう。 妊娠は恐らく先月のあの事故(・・・・)しか考えられない。それ以外で妊娠するようなことはオレの身には起こっていないからだ。だけど、だとしたらどうして妊娠したのか。 抑制剤も飲み、発情期でもなかった。さらにダメ押しでアフターピルもすぐに飲んだのだ。 そこまでしていたのに、妊娠するだろうか? だけど本当に、もう何年も可能性すらないのだ。 あの時以外でなんてあるはずがない。 そんな枯れた生活に一瞬虚しくなるけれど、本当にオレには恋人もいなければ、ワンナイトの遊びもなかった。 モテなかった訳では無い。オメガであるゆえ、それなりにアルファには誘われたし、なんならベータにも言い寄られたことはある。それでもオレはアルファに依存するのが嫌で、自分の力だけで生きていきたかった。 他のオメガのように、いかに優秀なアルファをつかまえて人生を豊かにしようとは思わなかった。オメガだからと、アルファに頼る人生なんてまっぴらだったからだ。 それを理解してくれるアルファがいたら違ったのだろうけど、アルファという生き物はオメガを囲いたがる。仕事を辞めさせ、酷いと交友関係まで絶たせようとするのだ。 そんな籠の鳥、オレは絶対にならない。 そう思ってがむしゃらに頑張って生きてきた結果、オレはひとり寂しく30代を迎えようとしていたのだけれど、まさか妊娠とは・・・。 中絶は絶対ないから生むんだけど、相手の人に言う必要はあるのか? 隣でぐっすり寝ていたアルファ。その顔に全く覚えがない。だからきっと、酔った勢いで意気投合した相手なのだろう。 もしかしたら正体をなくしたオメガを同意なく犯した外道という可能性もあるけど、オレ自身が全く覚えていないのでなんとも言えない。だけどなんて言うか、隣で寝ていたそいつを見ても全くイヤな感じがしなかったし、いくら酔っていたとはいえ寝てる間に犯されたのなら、さすがに目を覚まして抵抗するだろう。そうなれば少なからず恐怖なり嫌悪感なりが残っているはずだ。なのにオレはそんな嫌な記憶は全くない。ないどころか、あの香りを思い出すだけでお腹の奥がじんとする。 どきどきして、身体が熱くなってくるのは欲情してるからだ。もしもあれが同意のない行為だったとしたら、オレの身体はこんなにはならないだろう。 きっと頭では覚えてなくても、身体が覚えてるんだ。そして無意識にあのアルファを求めてしまうくらい、オレはあのアルファに優しくしてもらった。 だからといって、相手も同じ思いだとは限らない。お互い酒に酔った状態だ。向こうは単純にワンナイトの相手としてオレを選んだだけかもしれないし、もしかしたらそれすらも覚えていないかもしれない。なのにもしオレがそのアルファを見つけ出して妊娠したなんて言ったら、そのアルファにハニートラップをしかけたオメガだと思われてしまう。 オレからしたらそんな事ありえない事だけど、実際アルファに依存して生きていきたいオメガはいっぱいいるし、フェロモンで誘惑して既成事実を作ろうとするオメガもいる。そしてそんなオメガを蔑み、警戒しているアルファもたくさんいるんだ。 別に相手になにかしてもらいたいわけじゃないし、子供はオレ一人で育てていくつもりなのだから、せっかく幸せな気持ちでいるのに余計なことをして嫌な思いをする必要は無い。 それにどこの誰かもわからない相手を探すのもそれなりに大変だし、見つからないかもしれない。だったらこのまま何もせずにいた方がいいのではないか?
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