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「そうだよ。東堂グループの三男坊」
当然のように答える百瀬に、オレははっとした。
東堂グループの会長は父と仲がいい。
その名を聞いて、すぐに思い当たっても良さそうなのに、オレは全く気付かなかった。
「だからその人、父さんの会社に入ったんだって。いずれはちぃと結婚して、兄さんと一緒に会社を任せるために。なのにちぃがそれを拒否して家出ちゃったでしょ?相手はもう父さんの会社で働いるのに、肝心の結婚の話がなくなってこれからどうするかって・・・」
そんな話全く知らなかった。とにかくオレはあの時、部屋にこもって全く家族と話をしなかったから。だけど今の話だと、結婚は大分前から決まっていた事になる。
「ももはなんで知ってるの?」
もしかして、知らなかったのはオレだけ?
「オレはあとから聞いたんだ。兄さんは知ってたらしいんだけど、オレが知ったらちぃにも知られるからって」
確かにオレと百瀬は双子でいつも一緒だったし、何となく相手のことが分かるから隠し事なんて出来なかった。
「でももし知ってたら、オレ、その話に反対してたと思う。ちぃ、何も言わなかったけど、家でずっと苦しそうだったから。本当は嫌だったんだよね?何もかも決められちゃうこと」
双子だからなのか、お互いの気持ちが分かる時がある。だから百瀬はオレの気持ちが分かってたし、そんなオレを心配してずっとそばにいてくたことをオレは知っている。
「でも結局、ちぃは自分で父さんに反抗して家を出た。オレ、それで良かったと思ったんだ。これでやっとちぃも、ちゃんと息を吸えるって。だけどもし大変でまた苦しくなったら、今度こそオレがちぃを助けようって思ってた」
当時は自分の事で精一杯で百瀬の事まで考えられなかったけど、そんなことを思ってくれていたんだ。
「でもちぃ、全然オレのこと頼ってくれなくて、ちょっと寂しい。この子のことも、言ってくれたら協力したのに・・・」
そう言ってまたお腹をさする百瀬は、本当に寂しそうな顔をした。
「ごめん」
話すどころか倒れて知られるなんて、最悪のことをしてしまった。なのに百瀬はそんなオレに小さく笑った。
「ううん。オレもちぃに頼られる存在になってなかったから・・・オレも悪い」
そう言って百瀬も『ごめん』と呟いた。
「それで話を戻すけど、その東堂さんて、結局ちぃとの話がなくなったあとも独身のままだったから、またちぃと縁を結べないかって今回父さんが画策したらしいんだ」
その話にオレはドキリとする。
まさか今までのことは全て、父に仕組まれたことなのか?
「違うよ。今回はちぃを東堂さんの課に行かせただけ。前の時のちぃの激昂ぶりに父さんも懲りたみたいで、余計なことは何もしてないみたい。お膳立てはしたからあとは本人たちに任せる、みたいな」
確かに要さんは初め、オレは結婚してると思ってたし、シングルで子供を生むことを知らなかった。もし父が裏で何かしようとしてたら、真っ先に要さんにオレの事情を話していただろう。オレのことを知っていたのも、今回予め言われていたと言うより、前の結婚話の時にオレの写真を見ていたんだ。そう思って思い出した。前に要さんが言っていたことを・・・。
『以前結婚を考えた相手がいましたが、縁がなく結ばれませんでした。それからもどなたかとご縁があれば結婚しても良かったのですが、その人を越えられるほど思える方に出会えず、この歳までなってしまいました』
『一目惚れです。千歳さんを初めて見た時から、僕の心はあなたでいっぱいになりました。けれどあなたの人生に僕は不必要。だから必死に諦めようとし、必要以上に近付いてはならないと自分に言い聞かせてきました』
あの時言っていた結婚を考えた相手って、もしかしてオレのことだろうか?オレは父が出した写真をちらりとしか見なかったけど、百瀬の話ではオレが知るよりも随分前から話は決まっていたみたいだし、その時にオレの写真を見て・・・。
一目惚れ・・・?
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