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オレはてっきり、今回バイトに入った時に一目惚れしてくれたのかと思ったけど(恥ずかしい)、もしかしたら8年前・・・いや、それはオレがその事を知った時だから、要さんはもっと前に知っていたはずで、オレとの結婚前提で会社に入ったっていってたから・・・て、要さんて何歳なんだろう?2個上の兄よりも上だから、少なくともオレよりは3個以上は上だとして・・・。
オレはその長さに驚いた。
その間、ずっとオレを好きでいてくれてたなんて・・・。
そして今も、オレを好きでいてくれる。
「やっぱりさ、自分を好きな人と一緒になるのが一番幸せだよね」
オレの心を読んだかのように、隣の百瀬が呟いた。
今回、父はオレを要さんと同じ課に配属しただけだと言っていたけど、きっとオレと要さんが付き合うことを望んだのだろうし、兄も先週そう言っていた。
誰が見たってそれが一番いいことなんだ。
子供だってあんないい人が父親になってくれたら、きっととても幸せだろう。
やっぱり次の検診、誘ってみよう。
そう思ってスマホを手に取ったら、百瀬がそのスマホを取り上げた。
「・・・て、オレも思ってたんだ」
そう言ってオレのスマホをベッドの上に置いた。
「今の話で、東堂さんに連絡しようとしたでしょ?」
オレの考えなんて全てお見通しの百瀬は、そう言ってオレの顔を覗き込んだ。
「最近ちぃ楽しそうだった。だからこのまま東堂さんと付き合ったら、ちぃは幸せになれるって思ってたんだ。父さんと兄さんのお墨付きで、ちぃも心を許してる。だったらこの人以上にちぃを幸せにしてくれる人はいないって思ってた」
『思ってた』・・・さっきからなんで過去形?
「だけど先週帰った時、ちぃ、苦しそうだった。みんなは気づいてなかったよ。見た目はいつものちぃだったから。だけど、オレには分かったんだ。苦しんでるって」
オレを見ながらそういう百瀬の顔は口元に笑みを浮かべていたけれど、目は真剣だった。
「なんでだろうって考えた。ずっと楽しそうだったのに、まるで昔のちぃに戻ったように何かを堪えてる。じゃあ何を堪えてる?」
探るような百瀬の目を見ていられなくて、オレはそっと視線を外した。
「先々週まで楽しそうで、先週は苦しそう。何があったんだろうって思って、先週は兄さんがいつもより早く帰ってたことを思い出したんだ」
先週オレは兄と話をして、そしてオレの心は変化した。
「出産予定日が近づいてきてるのに二人のいい報告はまだない。そこで焦った兄さんが、ちぃに何か言ったんじゃないかって思ったんだ。そしてそれで、もしちぃの心が苦しくなったのなら・・・」
百瀬はそこで言葉を切ると立ち上がり、オレの前に膝をついた。そしてオレの逸らした視線を捉える。
「ねぇ、ちぃ。父さんも兄さんもお腹の子のことも、すごくいい人の東堂さんのことも関係ないんだよ。大切なのはちぃの気持ち。ちぃはどうしたい?ちぃも本当に心から、東堂さんと付き合うことを望んでるの?」
その心の奥底まで見透かすような百瀬の目に、オレの喉は詰まり、声が出ない。
百瀬に誤魔化しはできない。
それは生まれた時から・・・いや、母のお腹の中にいる時からずっとそばにいる百瀬だから、どんなに言葉で繕っても心は隠すことは出来ない。逆もそうだ。オレも百瀬のことならなんでも分かる。だからいまも、本当にオレのことを思ってくれてると分かる・・・。
「オレは絶対、何があってもちぃの味方だよ」
その言葉に、オレの心の箱の鍵が開く。
ずっと忘れなくてはいけないと思った。
だから箱にしまって鍵かけて、その思いが消えることを願った。
だけど百瀬の前では、その思いを殺さなくてもいい。
「オレは・・・オレは他のアルファが好きなんだ」
箱の蓋が開き、思いが溢れ出す。
「この子の父親?」
優しく目を細めた百瀬が、オレのお腹にそっと手を当てる。そしてオレは、小さく頷いた。
「なんでその人はちぃのそばにいないの?」
今まで子供の父親のことは何も言って来なかった。なぜこの子が出来たのか。どうして父親がいないのか。
「オレが逃げたから」
オレは、あの夜のことを百瀬に話した。そしてなぜ、その人を探さないのかも。
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