自立したいオメガと二人のアルファ

34/71
1728人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
それは妊娠させてしまったことについての謝罪なのだろうけど、オレは別に謝られたい訳じゃない。むしろオレにとっては感謝したいくらい嬉しい出来事だ。だからもう頭をあげて欲しいと思っていると、百瀬もそう思ったのかその人の隣に片膝をついて肩に手をかけた。 「もういいです。何も言わずに逃げたのはこちらですし・・・」 そう言った百瀬の言葉を遮り、その人はいきなり頭を上げた。 「いいえ、よくありません」 そう強く言ったその人の目は潤み、顔を上げた拍子にぼろぼろと涙が流れ出した。 「全然良くないです。全て僕のせいです」 そう言ってさらに泣き出したその人に、百瀬が慌ててハンカチを差し出した。するとその人はそのハンカチを目に当て、涙を拭う。 「僕が・・・僕がちゃんと朝起きていれば、あなたは逃げることも無く、こんな一人で何もかも抱え込ませることはなかったんです」 そう言って膝をついたままオレのそばまで来ると、座っているオレの膝に手を置いた。そしてその茶色い潤んだ目でオレを見上げる。 「一人で辛かったですよね。妊娠を知った時も、生むことを決めた時も、あなたを一人にさせてしまってごめんなさい。僕が不甲斐ないばっかりに、あなたに大変な思いをさせてしまいました」 そしてオレの大きなお腹に顔を寄せ、その頬を当てる。 「一緒にこの子の成長を見たかったです。悪阻の看病をしたり、初めての胎動の感動を分ち合いたかった」 そう言って更に涙を流すその人を、オレは信じられない気持ちで見ていた。 ごめんなさいって・・・。 その人の『ごめんなさい』が、オレの思っている意味ではないと気づいて、オレはどうしたらいいか分からない。だけど、その人の思いが触れたお腹から直に伝わって、オレの心臓は痛いくらいに締め付けられる。 「でもこうして会えたから、まだ間に合いますよね?今まで一緒にいられなかった分、これからずっとそばにいます。嫌だって言われてもそばにいます。この子を・・・僕の子をなくしてしまわないでくれてありがとうございます」 まだ涙に濡れた目を細め、にっこり笑ったその人の顔が、オレの心を埋め尽くす。 そして、お腹の子に向けるとても優しい思いがオレにも伝わってくる。 「嫌じゃないの?」 たった一度会っただけのオレとの子なんて・・・。 「なぜですか?すごく嬉しいです。この子がちゃんとここにいてくれた。それだけで僕はすごく嬉しいです」 そう言ってお腹にキスをするその人の顔は本当に優しくて、オレの視界が涙で歪む。とその時、それまで黙って横で見ていた百瀬が口を開いた。 「あの・・・いい雰囲気を壊して申し訳無いのですが、確認してもいいですか?」 その声にその人はオレから離れ、百瀬を見る。 「はい」 「あなたが探していたのは、この人で間違いないですか?」 それは同時にオレにも訊いたようで、百瀬はオレにも視線を向ける。だからオレは小さく頷いた。 「そうです。この方で間違いありません」 その人もそう答え、またオレの方を向いた。 「探して探して・・・見つからなくて・・・それでも諦められなくて探し続けた人です」 真摯な眼差しがオレに向けられる。そのキレイな茶色い目は柔らかく細められ、口元には微笑みが浮かぶ。 「その探していた人のお腹に子供がいて・・・その・・・驚いたりはしませんでしたか?」 百瀬は言葉を選んでそう質問したけれど、その人はちゃんと意味が分かったようだ。 「困るとか、本当に僕の子供かと疑う気持ちはありません。さっきも言いましたが、僕はすごく嬉しいんです」 そう言うと、その人は本当に嬉しそうに微笑んだ。 「・・・騙されてるとは思わないのですか?」 残念ながら、こうやってアルファを騙すオメガは少なからずいる。たとえ別のアルファの子でも、1度でも関係を持ったアルファをつかまえては番や結婚を迫ったり、それが叶わなくてもお金を要求したりするのだ。 「そうですね・・・。もしあの時、僕がお酒に酔っていたり発情(ラット)して記憶を飛ばしていたりしたらそう思ったかもしれませんが、あの時の僕はお酒を飲んでいなかったし、発情もしていませんでした」 その落ち着いた口調の言葉に、オレは驚く。
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!