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フェロモンを感じ取ることが出来るアルファとオメガは、そのフェロモンで相手を見つけることができる。
「運命の番のフェロモンを感じたオメガは、無条件でその場で発情して相手のアルファに自分の存在を知らせるんだ。そしてそのフェロモンをキャッチしたアルファはそのオメガを本能で求める」
無条件で発情する。
それは発情期ではなくても発情してしまうということなのか。
「抑制剤は?」
「なぜか運命の番が相手だと効かないんだ」
その言葉にオレは納得した。
だからあの時、発情期でもなく抑制剤も飲んでいたというのに、オレは発情したのだ。
本当は発情した記憶はないけれど、妊娠は発情していないとしない。
オレは大きなお腹に手を当てる。
あのときすぐにアフターピルを飲んだけど、それも効かなかった・・・。
「アフターピルも効かないんだ。まだ詳しいことは分かっていないらしいんだけど、なぜか運命の番が相手である場合、抑制剤はおろかピルも効かないらしい」
オレの考えが分かったのか、百瀬が教えてくれる。
ということは、ひとたび運命の番と出会ってしまったら、その相手からは逃れられないと言うことになる。
オレはその人を見た。
あの日から、ずっと忘れられなかったアルファ。
オレの心を捉え、いくら忘れようとしても忘れられず無意識に求め、どうしようもない焦燥感にその身を焦がした。
これは全て、運命の番に出会ってしまったオメガの本能がそうさせていたということなのか。
それはまるで、花の香りに吸い寄せられるミツバチのようだ。なんの感情もなく、ただ本能のままに蜜を集めるためだけに生まれてきた働きバチ。オレもオメガの最高の遺伝子を残すために本能に操られているに過ぎないのか。
そしてこの人も・・・。
「あなたはオレが、あなたの運命の番だからこうやって妊娠させ、ずっと探していたのか?」
アルファの本能のままに、身体を支配されたのだろうか?
さっきの涙も、温かい気持ちも、全てアルファの本能によるものだったのか・・・。
胸がぎゅっと痛くなる。
あんなに焦がれ、けれどいけない思いだと箱に閉じ込めたのに、それでも忘れられずにいたこの気持ちが本当は本能に支配されたものだったのだ。
オレの気持ちじゃなかった・・・。
まるで虫や獣のように、ただより優秀な種を残すためだけの本能だったんだ。
「・・・そうかもしれません」
初めて知る自分の気持ちの正体を知ってショックを受けるオレに、その人の言葉が追い打ちをかける。けれどその人は、とても穏やかに言葉を続けた。
「あなたに初めて会った時・・・いえ、おそらく無意識にあなたのフェロモンを感じた時、確かにアルファの本能に支配されていたと思います。香りを感じる前から本能が嗅ぎとったあなたのフェロモンに吸い寄せられ、僕は無意識にあなたの元へと向かいました」
口調は穏やかだけれど、内容は辛い。
やはりオレたちは、ただ本能支配されただけだったんだ。
そう思って見たその人の顔は、口調同様穏やかだった。
「自分でも不思議でした。僕の中に突如起こった行かなくてはいけないという衝動。そしてその思いのまま向かったのはラブホテルでした。その中の一室に僕は迷いもなく向かい、そしてその部屋の前に来た時、不意にそのドアが開いたんです。おそらく突然発情してしまったあなたは自分の身を守るためにそこに逃げ込んだのでしょう」
オレはそんなことは覚えていなかった。オレの記憶の中では発情していたことも覚えていない。ましてや自分でホテルに行ったなんて・・・。
「そのとき中から溢れ出した甘い香りに僕は瞬時に溺れ、そして僕の全てが飲み込まれてしまった。自分でも何が起こったのか分かりません。気がついたら僕はあなたをベッドの上に組み敷いていました。そして身体の奥底から湧き上がる欲求のまま、あなたを犯し、うなじを噛もうとしていた。でもそれを、僕はすんでのところで押し留まったのです」
その人の話にオレは必死にその時のことを思い出そうとするけれど、やはり何も思い出せない。
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