自立したいオメガと二人のアルファ

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「あなたの服を脱がせその身体に直接触れた時、あなたの思いが伝わってきました。本能による(アルファ)への性の欲求と、そんな自分への戸惑いと怯えです。そしてその思いを知った時、僕はこれ以上あなたを怖がらせたくないと思いました。そしてその思いが、僕を我に返したのです」 そう言うその人の顔はとても穏やかで、その人からは優しくて温かい思いが伝わってくる。 「我に返ってあなたを見た時・・・そんな時に不謹慎ですが、あなたの姿に心を奪われました。あなたは既に発情しきっていて意識を飛ばしていましたが、そんな中でもあなたはとても綺麗で美しかった。そしてその姿は僕の心を捉えました。確かにあの時、僕の中には本能による強い衝動がありました。けれどそれと同じくらいあなたに惹かれる心もあった。そしてその心はあなたのうなじを噛みたいという衝動を抑え、なんとか噛みそうになるのを堪えました」 確かにオレのうなじを噛もうと思えばすぐに噛める状況だった。もし運命の番に出会う事によって起こる本能の行動が本当であったなら、この人はアルファの本能に従い真っ先にオレのうなじを噛んだだろう。なのにそれをしなかったのは、この人のオレを思う心が本能に勝ったという事になる。 「それでもあなたの中に自身を打ち込みたいという衝動までは抑えられず、結局あなたを犯し妊娠させてしまいました。けれど僕は、ちゃんとその責任を取るつもりだったんです。正気に戻ったあなたに、正式に交際を申し込むつもりでした」 それまでのふんわりとした雰囲気が一転、真剣なものに変わる。 「運命の番だからあなたを探していたのかと訊かれれば、正直否定はできません。けれどあなたの思いを感じて我に返った僕の思いまでもが、運命の番に出会ったアルファの本能だとは思っていません。それでも、それすらもまた運命の番による本能だと言うのなら、僕はそれでも構いません」 そこでいったん言葉を切ったその人は、まるで眩しいものを見るように目を細めてオレを見る。 「たとえこの思いが運命の番に出会ったアルファの本能だとしても、僕にはどうでもいいんです。だって、こんなにも激しく思い焦がれることが出来る人は、この先何十年もある人生の中で、きっとあなただけですから」 そう言って笑ったその人の目の端から涙が零れる。そしてその涙が、オレの心を熱くする。 オレだって、こんなに誰かを思ったことなどない。 忘れようとしても忘れられなくて、会いたくて会いたくて仕方がなかった。だけど・・・。 オレの頭に不意に要さんの顔が浮かぶ。 あんなにもオレを思い、そしてオレの心を大事にしてくれた人。常にオレのためを思い、決してその思いを押し付けることなく、オレに安らぎを与えてくれた人。 オレの心が要さんを受け入れる準備ができるのを、きっと今も待ってくれている。 胸がぎゅっと苦しくなる。 本当に、あの優しい人を悲しませていいのだろうか。 あの優しい微笑みを、オレが消してしまっても・・・。 痛む胸を押えたオレの手を、横にいた百瀬が握る。 「頭で考えちゃダメだよ。オメガの本能も、周りの優しい人たちのことも関係ない」 百瀬がオレの手を握り、優しくそう言う。そして俯くオレの目を覗き込んだ。 「ちぃはどうしたい?ちぃの心は誰を求めているの?」 そして、ここ来る前にも言ってくれた言葉。 「オレは絶対、何があってもちぃの味方だよ」 その言葉が、オレの心に響く。 オレは・・・オレは・・・。 「あなたがいい。あなたのそばにいたい」 目の前でオレを見つめているその人に、オレは自分の心のまま呟いた。その瞬間、オレの身体をこれまでにないくらいの衝動が起きる。 認めてしまった思いは溢れ出し、オレの心を覆い尽くす。そして、この人のものになりたいという強い欲求が生まれる。 身体の奥底から沸き上がるその衝動が、頭で考えるよりも早く身体を動かした。 オレは座っているベッドから腰を浮かすと、転がるようにその人に抱きついた。するとその人もオレを力強く抱きとめてくれる。
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