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次の日、桜は有給を取った。
もちろん病院に行くためだ。
特に番になっていたからと言って、特に困ることも無く、いずれはなる筈だったので問題は無いのだけど、なんだろう。ちょっと気持ちが沈む。出来れば違っていて欲しい。そして然るべき時に、ちゃんとお互い番になる意識を確かめあってから番の儀式をしたい。
きっと桜も同じことを思っているのだろう。
平静さを装ってるけど、どことなく落ち込んでいる。
桜のことだから、きっと自分のせいだと思ってるのだろう。自分があんなに早く噛まなかったらきっとオレの発情にも気が付いて、それなりに思い描いた通りの儀式が行えたのに、と。
「もし番になっててもオレは嬉しいからな。だってオレ、ずっと桜くんと番になりたかったんだから。だから番だったらすごく嬉しいよ」
確かに少しがっかりしてしまったけど、桜と番になれて嬉しいのは本当だ。だからそんなに落ち込まないで欲しい。
そう思って出かける支度をしている桜に言ったら桜の目がみるみる潤んで、ぽろぽろと涙を流し始めた。
「千歳さん・・・僕だって番になれてたら凄く嬉しいです。でも、でも、僕にもう少し余裕があったら・・・」
そう言って下を向いてしまった。そんな桜をオレは抱きしめる。やっぱり色々考えてくれていたんだな。
「そんな情けない桜も大好きだよ」
このアルファらしくないアルファが本当に愛おしい。
「千歳さぁん」
オレにぎゅぅっと抱きついてくる桜くんの頭をよしよししてあげると、視界の端にベビーベッドにいる颯の姿が目に入った。出かける前でミルクをもらい、おむつも替えてもらった颯はご機嫌であうあう言っている。最近少し起きている時間が増えてきたけれど、大抵はこうしていい子で遊んでいる。
全く・・・どっちが赤ちゃんなんだか。
そう思いながらも、それすらも可愛くて口元が緩んでしまう。そしてそんな桜くんに、オレの中のがっかり感がすっかり消えていることに気づいた。
なんかすごく幸せだ。
思えばオレたちは、初めから上手くいった試しがない。
出会えたまではいいけれど、その後はすれ違い、誤解し、逃げて探して、ようやく再会できて、なのにその幸せを噛み締める間もなく嵐のように颯が生まれて、おまけにいつの間にか番になってましただなんて、なんだかオレたちらしい。
そう思ったら、なんだか本当に楽しくなった。
きっとこれからも順調には行かず、色んなことが起こるだろう。それがすごく楽しみだ。
次は何が起こるかな?
そう思っていたら、そんな気持ちが伝わったのか、桜が顔を上げてオレを見た。
「なんだか千歳さん、楽しそうですね」
不思議そうにそう言うから、オレは笑って答えた。
「楽しいよ。だってすごくオレたちらしいじゃん」
そんなオレの笑顔に一瞬きょとんとしたものの、桜もすぐににこっと笑った。
「そうですね。ほんと、僕達らしい」
そう言って笑い合うオレたちを、相変わらず泣きもせず颯が見ている。
ああ、なんて幸せなんだろう。
アクシデントはオレたちにとっては付き物。さて、次はどんな事が起こるかな?
そう思いながら、すっかり気分が治ったオレたちは仲良く3人で病院に行き、番の検査をしてもらった。そして予想通り、番であることが判明する。でもそれを聞いてももうオレたちはがっかりしないし、桜も泣かない。オレたちは医師の言葉に顔を合わせて笑った。
けれど、医師の話はそれでは終わらなかった。
「それからもう一つ・・・」
検査結果も聞いたし、すっかりこれで終わったと思ったオレたちは、椅子から立とうとしてまた座り直す。その様子を見て、医師が続きを話した。
「おめでとうございます。妊娠しています」
てっきり番になってからの注意事項的な話なのかと思っていたオレは、その予想もしなかった言葉に頭がフリーズする。
・・・・・・・・・え?
「ですので内診をするために、隣の診察室へ・・・」
オレの頭が動く前に医師が話を進めていく。けれど途中で桜がその話を止める。
「あのっ」
その声のあまりの大きさに、オレは驚いて桜を見た。
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