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「いや、それはまだだ」
まただ。なんで、俺は捜査情報を漏らしているんだ。飲まれちゃダメだ。
「では、質問を変えます。映像が証拠とならない。凶器もない。机やドアには、映像にある通り私はそこにいたのですから指紋もあって当然です。私を犯人だとする証拠はなんですか?」
俺はこほんと咳をすると。ゆっくりと喋った。
「あんた以外が犯人のわけがない」
その時、女が初めて笑った。
「私はやっていないので、もちろん、自白はしませんよ」
俺は奥歯を噛み締めた。こんな屈辱は、はじめてだ。
「だったら、状況証拠を積み上げるだけだ。じゃあ、芸能プロダクションの話は置いておいて、神在月砂月の自宅マンションのあんたの指紋は、どう説明する?」
「ひっかけですか? 行ったこともないので指紋なんてあるわけありません」
たしかに、こいつの指紋はなかった。ゴム手袋でもしていたのだろう。凶器も見つかっていない。目撃証言もない。
「でも、あんたは、役に入り込むと別人格になると言う証言がある。だから、あんたは、殺人を行ったあんたを知らないだけだ」
俺は、女の顔を覗き込んだ。女はくすりと笑った。
「また、何を言うかと思えば。
役に入り込むたびに別人格になるなんてあるわけないじゃないですか。
役者仲間にマウントするために言った私のウソですよ。そんなことを信用しちゃうなんて」
そこでまた、女はぷっと笑った。
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