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朝起きると、スマホを見た。また、2023年6月20日。オーディションの日だ。
私は、何度もこの日を繰り返している。ループしているのだ。
初めて体験した6月20日。
午前中にイメージトレーニングをした。オーディションの前に、自分はアイドルだと暗示をかけた。
気がつくと、ビルの入り口に立っていた。エレベーターに入り鏡を見ると、サングラスをかけて、帽子をかぶっていて、手には、タクシーの領収書を握っていた。
すでに、気分はアイドルだった。アイドルが公共交通機関を使うわけがない。
オーディションでは、挨拶をして、自己紹介をした。
そして、質問に答える。
歌って踊った後には、女優としての演技を見せる。
審査員の叫び声だけが記憶に残っている。
「やめろ! 不合格だ! 帰ってくれ!」
受験生は私ひとりだったことに違和感を覚えた。
アイドルになりたい。
そして、最終的には役者になりたい。
それが小さい頃からの夢だった。
そして、そう、私はこの6月20日をループしている。とはいっても、オーディションを受けたのはこの一度きりだった。
私の所属する劇団・羽子板の公演を見に来て、私を推薦してくれると言った永松一は、自分が審査員になると言っていたのに、姿を見せなかった。
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