マインドアウト

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大学やら研究機関やらが立ち並ぶ街の片隅の、至極ありふれた雑居ビルの一室に構えられたラボで、普通ならお目にかからないような光景が広がっていた。 うず高く積まれた書類や機材が山脈を成し、その谷間に立つ、十人ほどの白衣をまとった人々から緊張感が河のように流れ出ている。 その流れの行く先は部屋のど真ん中の、盆地のようにぽっかりと開いたスペースである。 無数の計器が取り付けられたイスに被験者が一人、頭にヘルメットのような装置を被って座っていた。 矢吹洋一もまた被験者の正面に立ち、柔らかそうな頭髪とは不釣り合いなほどに緊張で顔を強張らせながら腕組みをしている。メガネが少しずり落ちていてもお構いなしだ。 その傍らでは高須直美がパソコンに向かっていて、画面に表示される数値を鋭い目つきでチェックしていた。長い黒髪が部屋の明かりを艶やかに照り返し、自ら淡く光っているかのようだ。 「準備完了です、矢吹先生」  せわしなくキーボードを叩いていた指をぴたりと止めて、直美が告げた。洋一は彼女の視線を目で受け取り、ゆっくりと息を吸った。この実験が成功したら、俺は、彼女を……。
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