マインドアウト

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「……矢吹先生?」 手にしたスイッチをなかなか押さない洋一を、直美が訝しんだ。 「おっと、すまない」  洋一は満杯になりかけていた肺を解き放ち、慌てて背筋を正した。 「(食事に誘いたい……!)」  実験と関係のない邪念を潜ませながら、洋一はスイッチを押した。すると、被験者が被っているヘルメット状の装置――全自動思考整理補助装置、通称「マインドアウト」――のライトが青く点滅し始めた。 「よし、始めてくれ。制限時間は2分間。その間に課題文を読み、要約と意見を考えて、1枚の資料にまとめてくれ。いいか、考えるだけでいいぞ」 洋一の声に、被験者はイスに備え付けの脇机に置かれたプリントを黙って読み始めた。矢吹たちラボの職員も同じプリントを手に取ったが、社会問題に関する論説や図表、グラフがびっしりと書かれていて、一読では理解するのが難しそうだ。 ひときわ背の高い男性職員がメモ帳にあれこれ書き出していたが、小さいページがすぐにいっぱいになり、放り出してしまった。 「これを2分で整理するのは簡単じゃないですね。メモならできても、資料を作るとなると……」
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