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「みんなのおかげだよ。それに……」
洋一は笑顔でそれに応じながら直美に向き直ると、彼女もまた洋一に顔を向けていた。
「(笑ってた、かな……?)」
洋一の目には、直美がいつもの心を射抜いてくるような視線を和らげ、ほんの少しだけうっすらと笑顔を浮かべたように見えた。しかし、それでは問題に正解したとは言えない。
実のところ、直美としては最大限の笑顔を振りまいているつもりだった。だが何事も明快な理論と数値で測ってきた洋一にとって、その繊細な表情の変化を読み取ることは至難の業だった。
「あの……」
洋一が声をかけようとすると、先程メモ帳を放り出した長身の職員が洋一のもとに駆け寄ってきた。
「先生、行きましょう!」
「行くって、どこへ?」
「そりゃ決まってるでしょう。打ち上げですよ」
他の職員たちも行こう行こうと盛り上がっている。
「ああ、もちろん」
洋一は二つ返事で承諾しながら直美に目配せした。この場でいきなり二人きりで食事しようなどとは言えない。そもそも今までプライベートで交流することは全くなかったのだ。
まずはみんなで食事を楽しみながら、高須さんとの距離を縮めよう。脳内で段取りを組みつつ、洋一は訊ねた。
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