3人が本棚に入れています
本棚に追加
〜プロローグ〜
高校2年になった上田一樹〈うえだ かずき〉には悩みがあった。
モテたい。
ずっとモテたいと思っていた。
モテるように努力もした。
だけどモテない。
どうしたらモテるか悩み、寝れない日もあった。
その日も寝れずに、ベランダから夜空を眺めていた。
はぁ…と深いため息をつく。
そんな時だった。
夜空に赤く光る星を見つける。
ふと、目をつぶり手を組み願う。
モテますように。
モテますように。
モテますように。
赤く光る星が珍しかったからなのか、本人にもわからないが願っていた。
目を開けると、もう一度赤く光る星を確認しようと見上げたが、星はもう見えなくなっていた。
気のせいだったのかも知れない。
気にはなったが寝ないと、このままでは寝坊してしまうと思い、その日は寝ることにした。
次の日ピピピと目覚ましがなっているが、夜更かしをしていたせいで、なかなか起きれずにいた。
するとドアを開ける音と同時に、女の子の声がした。
「かずきー!起きてー!遅刻するよー!」
隣の家に住む幼馴染みの女の子、中谷朝日〈なかたに あさひ〉だ。
運動神経が良く、明るく元気で、面倒見の良い、自慢の幼馴染みである。
「もー!遅刻するよ!早く着替えて!一階のリビングで待ってるからね!二度寝しないでね!」
そう言うと、彼女はプンプンと怒りながら階段を降りていく。
これ以上待たせたら、さらに怒られそうなので急いで着替えると、彼女が待つリビングへと向かった。
「おそーい!また夜更かししてたんでしょ!」
ごめんごめん。と謝り一緒に登校する。
途中、見通しの悪い十字路に差し掛かった時だった。
朝日との会話に夢中で、注意せず歩いていると、右から本を読みながら歩いていた女の子と、ぶつかってしまい女の子が倒れてしまった。
すいません…と謝り、手を差し出し起こしてあげ、本を拾い渡す。
「こ、こちらこそ…ご、ごめんなさい…!本ありがとうございます…!」
そう言うと、顔を真っ赤にして走って行ってしまった。
かわいい女の子だったなぁ、と考えていると朝日が怒りながら言った。
「もー!かずき!なにやってるのよ!気をつけなさいよね!」
悪いことをしてしまったと、反省していると朝日が続けて言う。
「さっきの子…一年生の真白雪〈ましろ ゆき〉ちゃんよね」
知り合い?と聞くと朝日が答える。
「図書室によくいる子だから、話したことあるのよ」
朝日でも図書室に行くんだ…と、からかうと背中を叩かれた。
痛い…。
「馬鹿なこと言ってないで学校行くわよ!」
背中がまだヒリヒリしていたが、学校へ向かうことにした。
校門に着くと、高級そうなリムジンが停まっていた。
運転手の人がドアを開くと、縦ロールのいかにもな、お嬢様が出てきた。
高円寺楓〈こうえんじ かえで〉先輩だ。
「相変わらずすごい車。さすがお嬢様よねぇ」
朝日が呆れていると、高円寺先輩がこちらに気づき近づいてきた。
「あら?上田一樹と中谷朝日じゃないの。おはよう」
二人で先輩に挨拶を返すと先輩が言った。
「今日の生徒会忘れずに参加するのよ?」
わかりました!と返事をすると、先輩は先に校内へ向かう。
相変わらず綺麗な先輩だ。
そんな先輩と、どうして顔見知りなのかというと、モテるかなという理由で入った生徒会の、会長を先輩がしているからである。
朝日もよく生徒会に遊びに来ていたので、先輩と顔見知りになったのだった。
校内に入ると、教室前で朝日と別れ、自分の席に着く。
一番後ろの窓側の席、いわゆる主人公席である。
だが、モテない。
チャイムが鳴り先生が教壇の前に立つと、号令を済ます。
すると先生が転校生を紹介すると言い、女の子が一人入ってきた。
「みなさん初めまして!今日から転校してきました、漆原夏海〈うるしばら なつみ〉と言います。気軽になっちゃんって呼んでね!」
そう言うとみんなが拍手をし、なっちゃんよろしくー!と挨拶をした。
明るく人懐っこい女の子だなと思った。
先生が席は上田の横が空いてるなと言うと、漆原さんが隣に座った。
「よろしくね!」
よろしく!と返事を返し、自己紹介をする。
すると彼女が言った。
「それじゃあ、かずっちって呼ばせてもらうね!」
いきなりあだ名が決まってしまったが、嫌な気はしなかったので了解した。
それからはいつも通り授業を受け、生徒会に出て帰宅する。
家の前に着き今日はいろいろあったな、と考えていると突然声をかけられた。
「あ、あの…」
声がする方を見ると、今朝十字路でぶつかってしまった女の子、真白雪さんだった。
「今朝はすみませんでした。本に夢中になってて…。そ、それでですね…あの…」
なにか言いたそうだったが、なかなか切り出せないでいるみたいだ。
しばらく沈黙が続いたが、やっと決心したようで彼女が口を開く。
「実はですね…先輩!ずっと…ずっと好きでした!私と付き合ってください!」
顔を真っ赤にしながら彼女が言った。
突然のことで戸惑っていると、今度は別の方向から声がする。
「ちょっとお待ちなさい!」
そちらを見ると、校門の前で会った高円寺先輩が立っていた。
「わたくしこそが上田一樹に相応しいですわ!わたくしとお付き合いなさい!」
また告白された。
すると、また別の方向から声がした。
「まって!まって!まってー!」
今度は誰?と声がする方を向くと、転校生の漆原さんがいた。
「私も好きだよ!一目惚れなんだよ!私と付き合って!」
なんでみんな急に…と、考えていると、また別の方向から声が。
「だめだよ!かずきは昔から私のなの!誰にも渡さないんだから!」
幼馴染みの朝日もだった。
モテたいとずっと思っていたからなのか、はたまた星に願ったからなのか、なんとモテ期が来たみたいだ。
現実に起こったことが理解出来ず、混乱していると、彼女達が一斉にこちらを見て言う。
「先輩!」
待って
「上田一樹!」
お願いだから
「かずっち!」
待って…
「かずき!」
待ってよ…
「「「「誰を選ぶの!!!」」」」
モテたいって思ってたけど…
たしかに願ったけど…
ちがう…
そうじゃない…
だって…
わたし…
「女なんだけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
これはモテたいと思っていた、主人公である女の子の願いが、叶ったお話。
ただ一つ本来の願いと違ったのは、モテる相手が異性からではなく、同性である女の子達からなのだった。
最初のコメントを投稿しよう!