二 つまみ食い?

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二 つまみ食い?

 窓辺に人の気配がした。肖像画のように、胸から下がない。確か、寝たのは午前二時だった。カーテンの横から見えるワイヤー入りのダイヤガラス窓が白んで見える。四時すぎくらいか・・・。ダイヤガラス窓だ。人影は映るが、鮮明に見えるなんてあり得ないぞ・・・。  そう思ったとたん、堀田は目覚めた。 「いびき、かかないんだ・・・」  窓辺の気配が髪を揺らし、聞き覚えのある声でいった。窓辺に手も見える。 「幽霊かと思った・・・。入れば・・・」  五月にしては暑い夜だった。少し窓を開けて、座卓の電気スタンドを点けたまま、布団に眠っていた。  窓の外に立ってカーテンの内側に身を乗り出しているのは、高校を卒業した石原好子だった。  昨日も鷲野と加山が来ていた。机がありながら、妙な格好で座卓に向い、三人で受験勉強したため、すこぶる腰が痛かった。ベットの布団を背中で丸めて背もたれにしたが、痛みは消えず、睡眠不足と疲れもあり、二人が帰ったあと、そのまま座卓の横に布団を拡げて横になった。寝返りを打たずに眠りこんだため、腰の痛みは消えていなかった。  部屋に入るなり、その事を知った好子は、うつぶせになった堀田の尻に乗り、手のひらに体重をのせて腰を押した。腰の痛みが和らぎ、筋肉疲労が緩和する、じんわりした気持ちが良さが堀田の腰に拡がった。  数分すると、好子は堀田の脇腹に両手の指先をそっと触れた。 「くすぐったいな・・・」と堀田。  今度は強く指先が堀田の脇腹に触れた。  反射的に堀田は身をよじり仰向けになった。好子が下腹部に乗っている。堀田はそのまま、お返しだ、と言って、好子の胸に触れた。好子はトレーナーとTシャツだけだった。 「山本さん、どうしてる?」  好子の恋人は今春大学を卒業して大手製薬会社へ入った。 「アメリカで研修中」 「好子、オレをつまみ食いしてる?」  堀田は横たわっている好子を見た。 「そうよ・・・。これ・・・」  好子は手首を見せた。ミミズ腫れの変色した皮膚の真新しい盛りあがりが三本ある。 「入試、ダメだった・・・。来年受験して、受かっても、受からなくても、山本さんと一緒になる・・・」 「そうか・・・」  好子は古風な顔立ちだ。小柄でぼっちゃして可愛い。小さなピンクの花びらのような口元が上品な感じがするが、行動は古風ではない。夫となる山本の未来が想像される。  メールを信じるなら、この娘は、本人が話すとおりになるのか?  いたずらメールと思いながら、あのメールを信じている堀田が布団にいた。
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