君の瞳の中の青 -刻の流れと共に

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君の瞳の中の青 -刻の流れと共に

真新しい服。 今までと違う生活。 何もかもが新しいもので充ち溢れていた。 「行ってきます。」 春になると人は必ず扉を開く。 人は新しい場所で、新しい仲間と出会う。 春は新しい季節だ。 誰もが心躍らせて春を待っている。 ワクワクとドキドキ。 感情がいくつも重なる。 たくさんの人が、気持ちをざわつかせている。 小鳥のさえずる音。 木々の葉が奏でる音楽。 暖かな春の陽気に包まれた広いのっぱらで僕は一人昼寝をしている。 風に乗って春の花の匂いが届く。 ついこの間までここが、真っ白な一面の銀世界だったとだれが想像するだ ろう。 この頃になって急に暖かくなって、 せかすように春風が街に吹いてきた。 暖かい春風が吹くと追うようにして 春の花や草木が咲き誇る。 特にここには街で一番大きな桜の木がある。 春の匂いのする風が僕のほほを撫でるとその風で美しい桃色の花びらが そよそよと舞っていく。 ここには僕しかいない。 人気はなく、ひっそりとしたこの場所で僕はいつものように寝転んでいる。 大きな布団のように一面に気持ちのいい芝生になってる。 誰かが管理していたわけでもない。 この草木たちがここで生き、芽を出したんだ。 昔々の大昔から、人と人との繋がりは絶えずに続いている。 そう思うと、時は流れていくんだと思う。 風が吹き、夏が来て、木々の葉が紅くなり、秋が来る。 葉が落ちて、冬が来て、もう一度春になる。 いつもどんな時も刻は絶えず動いて僕らの人生に寄り添うんだ。 「そろそろ帰らなきゃ」 時間はいつの間にか夕刻をさしていて、あたりの風景も昼間から夜に 変わろうとしていた。 この場所は、街の一番上に位置していてここからは街全体が見下ろせる。 太陽が別れを惜しむように、街を暁色に染めていた。 春の夕刻は、温かく、寒い。 不思議な気温だ。 そんなことを思っているうちにも、向こうに広がる碧い海にくるくると太陽が沈んでいく。  ここは、大昔から栄える僕らの国・ガリア。 緑豊かで、美しい自然を堪能できる。 それだけでなく、山脈もあるし気候も上々。 近くに海もあるから生活するにはこの上ない国だった。 僕はガリアが好きだし、これからも この国で生きていきたいと思う。 この地域は山に囲まれた盆地にできた街で、この場所は盆地の開けた場所にある所から少し上がった小さな丘で僕の秘密の場所だ。 ここから右に行けば山の斜面に広がる牧草地。 下に降りれば、少し豊かな街並みが広がっている。 決してきれいな服じゃないけれど、服についた葉っぱを落とし、僕はゆっくりと立ち上がった。  僕の名前はナルボ。 ナルボ=クレマン。 下町育ち・茶髪の十六歳だ。  街に降りると、これからだ!とでもいうように準備を始める酒屋と、 売りつくした八百屋や小さな商店が店を閉じるのとが入れ違いになっていた。 「あらナルボ、今帰りかい? 今日の夕焼けはきれいだねぇ」 途中で店じまいをしている八百屋のおばあちゃんに声をかけられた。 色あせた薄い布を畳んでいる。 きれいな白髪で笑うと顔のしわも増え、たれ目が見えなくなるほどだ。 「うん。本当にきれいだ」 「ナルボのめが青とオレンジで綺麗に重なってるよ」 「そうかな…」 僕は、自分の目に手をやった。 「お店しまうの手伝おうか?」 売れ残っているのは、いかにも重そうなカボチャたち。 おばあちゃんが運ぶような荷物じゃない。 「優しいねぇ。頼んでもいいかい?」 「もちろんさ」 奥のトラックまで運び入れるとトラックの運転席からおばあちゃんの息子さんが顔を出す。 「あぁ、ナルボか。ありがとうな。残ったカボチャ持ってけよ」 「いいの?ありがとう!」 荷台に乗った綺麗な緑のカボチャが夕日に照らされて鈍く光っていた。 これで、お土産ができたな。 大事に抱えて、もう一度お礼を言ってその場を後にした。  「「「おかえりなさぁい」」」 家に帰れば、たくさんの暖かな声が返ってくる。 「おにいちゃぁん、どこ行ってたの?」 「あ、それかぼちゃじゃん!」 「やった!かぼちゃのマフィン食べたい♪」 次々くる言葉に一つ一つ返事をしながら、頭を撫でた。 黒い綺麗な髪をした男の子に、赤みがかった綺麗な瞳の女の子。 皆、僕の大切な人。 この空間が今の僕の家だ。
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