君の瞳の中の青-出会いはいつも偶然に

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君の瞳の中の青-出会いはいつも偶然に

今日は、春の祭り・ニースのカーニバルの日だ。 昨日から街のみんなも準備に勤しんでいた。 街の準備はもうOKで、あとはたった一言を待つだけだった。 僕らも、その一言を聞きに城の前へと向かった。 「今日は、王様に会えるんでしょ?」 一番小さな白銀の髪の小柄な子・ルカが聞いた。 「そうだよ、とってもきれいな方なんだって」 僕も、機会がないと会えないから実はひそかに楽しみにしていた。 歳も二つか三つしか違わないらしい。 それなのに一国を治めているんだ。 「楽しみだね」  城の前には、街中の人が集まっていると言っても過言ではないほどだった。 こんな小さな町にもこんなにたくさんの人が住んでいるのか。 ざわついていたその場が一瞬にしてシンと静まった。 キャーキャーとうるさい子供たちは、王様の話の邪魔になる。 急いで静かにさせた。 膝をついてかがんで、目線を合わせる。 「ほら、みんな静かに」 そう言いながら後ろを振り返った。 まぶしいほどの光に照らされた真っ白な壁面から飛び出したバルコニーに、 今まで見たこともないような美しい青年がたっていた。 何にも染まらないような清らかな人。 光の中で輝くシルクのような金色の髪。 その髪が春風になびいていた。 なんだろう。 時間がゆっくり流れているかのように時の流れが遅く感じる。 王様の太陽を映すようなきれいな紅い瞳と目が合う。 たった一瞬だったのに。 僕は、この紅い瞳にくぎ付けになった。 その顔が風に揺られて少し緩んだように見えた。 「さぁ、ニースのカーニバルの開幕だ」 待ちに待った一言が放たれた。 王様の言葉と同時に民衆から歓喜の声が上がった。 「きゃぁ!これでカーニバルが始まったね!」 そうだね、と頷いて目線を上げ、城のバルコニーを見た。 そこにはもう、美しい青年はいなかった。 複雑な気持ちが頭をよぎる。 気にしないほうがいい。 だってこれから楽しいカーニバルが始まるのだから。 「お兄ちゃん、これ買って!」 海から城まで続いているメインストリートは、大理石で舗装され、光の中できらきらと輝いている。 その道を囲う様に出店が並んだ。 赤青白とカラフルなテントの下ではいろいろなものが売り出され、 やれ稼ぎ時だと仕事に打ち込む人と、買い物をする人とで、もう何が何だか分からない状態だった。 それでこそカーニバルって感じだけどね。 そんな中をみんなを連れて歩いていたら、茶髪の子が僕のシャツの裾を引っ張った。 「飴買って!」 今日だけは、みんなの我儘を聞いて、欲しいものを買ってやろうと思って毎日働きに出て稼いだお金を使う時が来た。 今日の日のために、手に汗握る思いで一生懸命に働いていたんだ。 「あぁいいよ。何味がいいんだい?」 普段あんまり甘いものを食べていないからか、目を輝かせて飴の味を選んでいる。 「お、ナルボの坊主たちか。 カーニバルおめっとさん!弟たちつれて買い食いか?」 「カーニバルおめでとう、おじさん。今日は特別な日だからねぇ」 弟たちの頭を撫でてにこやかにそう言った。 カーニバルは一年に一回の最高の日だから、 「おめでとう」そう言ってみんなで祝うんだ。 皆が味を選び終わるとおじさんは、おまけだと言って僕の分もくれた。 この国の人たちはみんないいようにしてくれる。 でもそれは、本当にそうなのか。 そんなふうに思ってしまうことが時々ある。 僕は頭を振った。 考えるのはやめよう。 今日くらいはゆっくり楽しみたい。 皆で飴をなめながら、メインストリートをぶらつく。 他の人たちもみんなハイテンションで楽しそうだ。 飴をなめ終わると、さてここからがニースのカーニバルの見どころ。 ダンスが始まるんだ。 ここから皆ぶっ続けで踊って夜を明かす。 途中でお酒を飲んでディナーを食べて。 楽しくおしゃべりして。 そんな優雅な一日を過ごすんだ。 そんなにぎわう中で僕らは少し道を外れた。 人通りのない小さな路地でしゃがむ。 さっきの白銀の髪のルカの足に靴擦れができてしまったのだ。 白い肌に、赤紫になって皮がめくれてしまった足をそっと触った。 「うぅ、痛いよぉ」 可哀想に。僕の手に収まってしまうほどに小さくほっそりとした足になんとも痛そうな傷。 「痛いね。ごめんね」 申し訳なさで心がいっぱいになった。サイズの合った靴すら買ってあげられない。 不甲斐ない。 不意に誰も通らないような路地なのに後ろに人の気配がする。 驚いて振り向くとそこには、見慣れない青年がたっていた。 フードをかぶっているから全部はわからないけれど、髪の陰から赤い瞳が見えた。
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