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ニースのカーニバル。
最近城の中ではその話題ばかりだ。
国を挙げての大きなカーニバル。
国民はもちろんのこと、私もひそかに楽しみにしていたのだ。
「ルイス様、お時間です」
私の一言から、カーニバルが始まる。
そのために豪華なつくりの壁、その下に負けじと存在感を出す赤に金の縁取りのじゅうたんの上を歩きバルコニーへと向かった。
私の名はルイス=ロベルト。
十八歳。
歴史あるガリア王国の若き国王だ。
まばゆい光が差し込む暖かなバルコニー。
その奥には数えきれないほどの国民が集まっている。
俵に入ったコメのように、違いも分からないようなところだ。
前へ出るとざわめきが一瞬でやみ、静かな空間ができた。
けれどもそのなかで少しの子供の声が聞こえる。
そちらに目を向ければ,あまり見えないのにも関わらず、まだ少年のような男が子供をなだめていた。
少しすれば静かになり、その男がこちらに振り向く。
ほんの一瞬だけ目が合った。
まっさらな空を映す青い瞳だ。
なんだかわからないが、その一瞬で私はあの瞳の虜になった。
それから私は、忍びで街へと出かけた。
フードのついた羽織を身につけ町人の格好に見立てる。
この日だけ、姿を隠し楽しむことができるのだ。
メインストリートから一本入った人気の少ない路地から、街へと入ろう。
そう思った。
すると、七歳、八歳くらいの子供たちが数人。
その子供たちが囲むように十四歳くらいか。
茶髪の少年がいる。
近づくと足音でもしたのだろうか。
少年は、驚いたように振り向いた。
「…あの、なにか?」
強張った声でそういう少年。
彼は、例の青目の少年だった。
あまり抽象的なものを信じるのは好きではないが、このときばかりは私も運命というものを信じた。
子供たちを後ろにやってかばうように立ち上がる。
「いや、困っているように見えたから…」
普段なら何気なくきびきびとしゃべれるはずなのに、その時はなぜか言葉が濁った。
「あ、あぁ…。すみません、大丈夫です」
頭を下げてその場を立ち去ろうとした。
自分とは対照的な青い瞳。
何故か一人でたくさんの子供をあやす姿。
どこかさみしげな雰囲気。
その全てに惹かれるようだった。
はじめはこの少年に興味がわいた。
ただそれだけだった。
「名は。そなたの名は?」
「え…?」
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