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第一章 愚直でいい
スタイリストとして働き始めて三年目の春、ようやくつかんだ憧れの舞台に、山岸和奏は胸を躍らせていた。
人気アイドルである結城紗奈の新曲のジャケット撮影に、和奏はスタイリストとして選ばれたのだ。
和奏はもともと、紗奈の楽曲が好きだった。
何か嫌なことがあっても、紗奈の歌声を聴くと癒された気持ちになるし、ミュージックビデオで見る紗奈はとてもかわいくて、見ているだけで元気になれた。
そんな紗奈の衣装を手掛けることができることになって、和奏は舞い上がっていた。
自分にそんな大役が務まるのかという不安はあるが、それよりも嬉しさや喜びのほうが勝っていて、初顔合わせの日を心待ちにしていたのである。
そして今日、紗奈のレコーディングスタジオにやってきた和奏は、収録が終わったあとに、撮影用の衣装の打ち合わせをすることになっている。
レコーディングの様子を見ることはできなかったが、紗奈と会えるだけでテンションは上がるし、緊張もする。
胸の高鳴りを抑えるのに必死だった。
しかし、今日の和奏は仕事でここに来ているのだ。
単なるファンとして紗奈に会いに来たのではない。
大事な仕事を目前に、和奏は不安でいっぱいだった。
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