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「で、こっちの兄ちゃんは、兄ちゃんの友達?」
持ち上げてやった夕陽は満足したようで、興味は隣にいた遼一に移ったようだ。
「そうだよ。お兄ちゃんの友達。初めまして夕陽くん?」
「うん、そう、俺が夕陽で、こっちが双子の妹の日向」
日向は、夕陽と同じくりくりとした目でジッと遼一を見ている。遼一がハンサムだから、子供でも見惚れてるんだろうか。
「お兄ちゃん。初めましてじゃないよね?うちのパン屋さんの近くに来たことあるよね?」
「えっ?日向、気の所為じゃないか?遼一はうちに来たことないぞ?」
「気のせいじゃないもん。日向このお兄ちゃんと喋ったの。うちのパン屋さんのチラシ持って立ってたから話かけたんだもん。うちのお客さんですか?って。そしたら瑞希の妹?って聞かれた気がする……お兄ちゃん、パン屋さん入らないで帰っちゃったよね?」
確かに、五年前。高校三年の時にパン屋オープンのチラシを学校に持っていって配った。クラスの奴らには全員配って、来てくれた友達もいた。
残ったチラシは持ち帰るのもなんだから、帰りに校門で配ったんだ。受け取ってくれた中に遼一がいた?チラシを見てうちまで来てくれてた?
当時五歳の日向の記憶だから、間違ってるかもしれないけど、遼一は否定もしてない。
「こぉら、夕陽に日向〜。お前らおじちゃんが車停めるから待てって言ったのによぉ」
また玄関の方から声がして、父さんの弟の奏一おじさんが入ってきた。
「奏おじさんが二人を連れてきてくれたんですね」
「よぉ、瑞希。二人が家に一回行きたいってきかなくてよぉ。車駐車場に停めるから待てって行ってるのに、家の近くの信号で赤になったら飛び出して走っていくんだもんな、参ったよ。このじゃじゃ馬双子め」
おじさんは二人を順番に持ち上げて、二人はキャーキャー言って喜んでる。
「そっちのハンサムくんは瑞希の友達か?」
「そう、……高校の同級生でもある遼一だよ」
「そうか。瑞希にもこんな友達がいたなら良かったよ。こいつはずっと一人っ子で甘ったれだった癖に、この双子産まれたら急に、僕はお兄ちゃんだからって言って、何でもかんでも我慢して自分でやろうとしてた。学校でもそんなじゃなかったか?そんな瑞希に、借金の後もこうして家に一緒に来てくれるいい友達がいるなら良かったよ。これからもよろしくな、遼一くんとやら」
おじさんは遼一の肩に軽くポンっと手をおいた。恥ずかしいからそんな話やめてほしい。一人っ子だったから甘ったれだったとか、そんな自分は、双子が産まれた時に置いてきたつもりだったのに。
俺が遼一には甘えてるようにでも見えたのかな。確かに、最後に家でパンを作らせてほしいなんて、時間のかかるお願いに、遼一は嫌な顔一つせずに付いてきてくれて、パン作りを楽しんでくれてる。ように見える。
演技とか、気を使って楽しそうにしてるってわけじゃないよな?そんな気を使う人間じゃなかったと思う。なら、何?
案外面倒見のいい、良い奴なんだな。遼一のことが少しずつ理解できてる気がして嬉しかった。
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