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「おいし〜い」
「うま〜い」
双子の一言目が重なった。日向はいちごジャム、夕陽はバターといちごジャム両方塗ってと言うから、瑞希と手分けして塗ってやった。
「遼一はなにつける?」
「俺?俺は…そうだな、まずはそのまま食べてみる」
「おっ、通だね」
瑞希は面白いものを見るように目を細めながら、何も塗ってない焼き立てパン・ド・ミ?を渡してくれた。
「いただきます」
「どうぞ」
「おっ、旨いな…」
「なに遼一、俺が作るもの美味しくないだろうとか疑ってたの?」
「そんなんじゃないけど」
多分、食パンだろ。変わらないだろって思ってたけど、あっさりした、食パンよりも軽いパンで、ジャムを塗ってのおやつでも良いくらいだ。
俺はそんなに甘党ではないから、ジャムもバターもなしでこのままでいいや。
双子が食べてるから静かだなぁなんて軽く考えてたんだが、ふと横の日向の方を見ると、食べながらポロポロと泣いていた。反対側の夕陽も。
「パパの味……パパ…パパ…ママ…パパぁ、ママぁ」
声を出したら涙は更に止まらなくなってしまったようで、日向は号泣していた。夕陽も、パパママとは呼ばないものの、鼻水も垂らして泣いてる。
今まで泣かないよう、いつも通り明るくいようと、子供とはいえ頑張ってたのかもしれない。
「日向、夕陽、お兄ちゃんがいるからな。でも今は思い切り泣こうか」
双子を抱きしめに来たんだろう瑞希が後ろから二人まとめて抱きしめるから、間に座ってた俺まで自然と抱きしめられる形になった。
双子抱きしめるのは平気なんだ。弟妹だからそりゃそうか。瑞希、間違ってというかハプニングで俺まで抱きしめてるぞ?ってツッコミいれたら驚いてくれるかな。それとも急にドキドキしてくれるかな。
双子が両親を思い出して泣いてるのに、こんな事を考えてる俺は不謹慎かもしれない。まぁ、さっき会って遊んだばかりの双子に感情移入するってのも無理な話だ。幼くして親を亡くしたのは可哀想だと思うけど、それだけ。
むしろ親を亡くしてこんなに泣けるこの二人が羨ましいとも思った。
時折ふんわりパンの香りがするのは瑞希からだろう。こっそりと瑞希を見て、泣いてないなと思った。
親を亡くして悲しいのはお前も同じだろう。
瑞希のおじさんが言っていた言葉を思い出す。
『双子が生まれてから、自分はお兄ちゃんだからと色々と我慢してた』と。
お前、今も我慢して泣いてないんだな。そうだろ?
帰り際、瑞希のおじさんにまた礼を言われた。
「瑞希に君みたいな友達がいて良かった。これからもよろしくな。たまに甘やかしてやって」
「お兄ちゃんたち〜、またね〜」
「りょーいち、また遊んでやるから兄ちゃんのことよろしくな!」
目を腫らしながら、おじさんに連れられ帰る双子。二人とも、手には瑞希が作ったパンを袋に入れてもらって大事そうに抱えてる。
「またな」
「二人ともおじさんの言う事聞いて仲良くね」
双子は、俺たちの姿が見えなくなるまで車から手を振ってた。
「さっ、俺たちも帰るか」
「うん。遼一、ありがとね」
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