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思い出
−−−鈴木遼一side−−−
『島田瑞希』忘れられない名前だった。
今回の取り立ての名前を見た瞬間すぐに目についた名前。酷く懐かしい。同姓同名の別人である事を願った名前だった。
実際は、本人だったわけだが。
島田瑞希は高校の入学式から目立っていた。目立っていたというか、俺の目が勝手に捕えて、目を逸らせなかった。
あの屈託ない笑顔。
中学出たての子供たちが、高校という新しい環境に緊張した顔をしてる中、あいつはニコニコ笑って周りの同級生にコソコソと話しかけていた。隣のクラスとはいえ、並んでる列は近く。
「俺島田瑞希、よろしく。えっ?最初から友達になって楽しい方がいいじゃん」
周りの人間が徐々にリラックスした表情になっていったのを覚えてる。
眩しかった。高校入学する際に、「卒業したら家業を手伝ってもらうから、あんまりカタギの皆様と仲良くなりすぎるなよ?」と親父に言われて暗い気分だった俺に、瑞希の笑顔は眩しすぎた。
それからずっと、ひっそりと見かけては喜んでたんだ。
あいつ今日も元気そうだな、って。
ちなみに入学式の瑞希の行動を見て「ガキみてぇ」と笑ってた隣の席の奴は、式が終わってからボコっておいた。
二年に進級し、同じクラスになった時、嬉しいよりも童謡した。あいつを毎日見ていたら俺はどうなってしまうんだろう。
目を逸らそうと思っても、島田、鈴木と並んだ名前では、席順は瑞希の後ろに俺だった。
毎日毎時間毎分目に入ってしまう後ろ姿。男の項に欲情したのなんて、後にも先にもあいつしかいない。自然と、関わりをもつ事を避けた。
自分からは話しかけない。自分で勝手に作ったルールだ。これさえ守れば大丈夫。そのうち、時とともに忘れられる思いだ。
一度だけ、破ってしまったことがあった。
放課後、日直が書くはずの日誌を、日直じゃない瑞希が書いていた時。
「島田って、お人好しだよな。なんでも面倒を引き受ける」
ニコニコと、クラス委員だの雑用を引き受ける彼を見てきて、もどかしかったのだろう、思わず言葉に出してしまってた。
瑞希は、キョトンと驚いた顔をしてこちらを見た。そうだろう、いつもこちらからは話しかけない俺が話しかけたから。
「あぁ、鈴木。う〜ん、俺もさ、本当に嫌だったら引き受けてないから大丈夫大丈夫。ありがとな、鈴木って何気にいい奴なんだよな」
あの眩しい笑顔で笑いながら言った。俺だけに、俺の為にもそんな笑顔作れるんだと思ったら身体が熱くなって、ヤバい、と思った。
「そっか……無理すんなよ」
「あれ?待っててくれないの?これ一緒に帰る流れじゃん?おーい、鈴木〜〜」
無理だ無理だ無理だ、お前と帰ってこのまま二人の時間をもつとか無理だ。
瑞希の声を背に、学校の廊下を早歩きしてたのを、振り切るように走った。
「お前昨日猛ダッシュで帰ったけどなんか用事でもあったのか?」
次の日友達が笑いながら声をかけてきた。
俺は、あの時なんて返したんだか思い出せない。
頭の中は瑞希の笑顔でいっぱいだったんだ。
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