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いろいろないろ。
「遼くん!」
「真波?」
──窓際で長い睫毛を伏して、読書に臨む横顔。真波秀悟は、図書室で見掛ける瀬野本遼のこの横顔を眺めるのがとても好きだ。冬の日差しに照らされて輝く黒髪、陽の光を透かす長い睫毛、色素の薄い茶色の瞳、薄い唇。彫像然とした無表情がこちらを見る時にほんの少しだけ綻ぶ、その瞬間がとても好きなのだ。
「何しに来た」
ぱたん、と。静かな音が閑寂とした空気に溶ける。本の表紙を閉じる所作すらも無駄が無い。陶器のように白い指先が背表紙に添えられるさまは、秀悟の目を引いてやまないのだ。本を閉じた後に背表紙を指で撫でるのは、秀悟だけが知る遼の癖である。
「んー……?本を返しに来たら遼くんが居るのに気付いたんで、取り敢えず声を掛けてみただけ!意味は無いよ!強いて言うなら喋りたい!」
「さっさと教室に帰れ」
「うわ酷い!!」
眉間に皺を寄せて出入り口を指し示す様子も──と思ったところで、その仕種に添えられた言葉の意味に気付き大仰に嘆いてみせる。
「俺にとって休憩時間は休むためにある。喋るためにある訳じゃない」
「それなら脳も休めないと駄目じゃん!」
「読書は呼吸と同じだろ、お前は毎度休憩時間に呼吸を止めるのか?」
「〜〜〜……っあー、もう……!」
秀悟は元より口が達者な方では無いので、遼に口喧嘩で勝てた試しが無い。勝てる事と言えば運動能力と美術の成績くらいだ。
「分かったらさっさと帰れ。邪魔だ」
それでも諦められないのか、本を選ぶべく立ち上がった遼の背を追うようにして着いていくと、あるコーナーの前でその歩みは止まった。
「……」
「遼く〜ん……」
「静かにしてろ」
哀愁漂う犬よろしく背後で情けない声を上げる秀悟を一蹴すると、遼はやがて一冊の本の背表紙に指をかけ本棚から引き抜いた。そしてそれを振り返りざまに秀悟の目の前に差し出す。
「……読んでみろ」
「?」
促されるままぱら、ぱらとページを捲る。
「読み終わったらちゃんと返しておけよ」
淡々と告げたあと、遼は振り返りもせずに図書室を出て行った──が。それに気付く事も無く、秀悟は次第に夢中になって内容を読み進めていった。
"美術に生を捧げた少年と、一輪の造花のおはなし"
窓から射し込む日差しが、夕刻のそれになるまで。
「はー……面白かった!それにしても遼くん、何でこんな本を俺に……遼くん?遼くん!ちょっ、もしかして俺置いて行かれたの!?」
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