三番目の仔豚の話、そしてこの物語の教訓

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三番目の仔豚の話、そしてこの物語の教訓

 三番目の仔豚は、兄豚達の死に様を見ることで悟りました。  欲するものが金や地位であれ愛や絆であれ、結局は現世で自らが何かを得ようとすること自体が虚しいのだと。  そして彼は、現世で何かを得ようとするよりもむしろ与える側になる道を選びました。    ここまで言えば、もうお分かりですよね。  そう、彼は美味しい生ハムになったのです。  兄豚達と違い、彼が病に苦しむことはありませんでした。  最高の生ハムとなり人々の舌を楽しませることを目指していた彼は、兄豚達のように体にガタがくるまでだらだらと生きるような真似はせず、まだ若く健康で肉質の良いうちにその生を終えたからです。  兄豚達と違い、彼は自分が何のために生まれ生きてきたのかと臨終の床で思い悩むことはありませんでした。  彼の人生が美味しい生ハムとなるためにあったことは、問うまでもなく明白だったからです。  兄豚達と違い、彼の死に絶望はありませんでした。  彼は自らの死によって多くの人々に滋養と幸福を与えられるという希望を胸に抱いたまま、最期の時を迎えられたからです。  兄豚達と違い、彼の死には孤独もありませんでした。  生ハムとなることで多くの人々の血となり肉となった彼は、死してなお、それらの人々と共にあるからです。  さて、ここまで聞いたら、もうお分かりですよね。あなた達豚にとって、何になることが幸福なのか。  それでは……そうですね、たかし君、言ってみてください。  あなたは、何になりたいですか?  そう、それが正解ですよ。  あなた達豚の幸せは、生ハムになることです。  よくできましたね、たかし君。君は実に良い仔です。賢い仔です。  他の皆さんも今日私がした話の教訓をよく覚えておき、余計なことは何も考えずに美味しい生ハムになることだけを目標に生き、そして死んでくださいね。    あなた達は、人ではなく豚なんですから。    分かりましたね、良い仔の皆さん。
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