3 声だけの逢瀬で真実を

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3 声だけの逢瀬で真実を

「ルディ、今すぐ私を連れて逃げて!」  ようやく指輪の効果が戻り、ニアと話ができたのは婚約話が上がってから1週間後。  ニアの涙ながらに訴える声に、俺は震えた。  何から逃げるんだ。そうだな、俺からだな……。 「ニア、どうしたんだ……」 「あのね、酷いの。私、数日前に、婚約者になった人に会ったんだけどね。酷い嘘をつかれたのよ……」  酷い嘘。うん、結果的に嘘をつきました。ごめん……ニア、本当にごめん……。  今日は何としても、真相を伝えて、理解を得なければならない。そうだ、こんなことになったのは、対面しても相手がニアだと気付かなかった愚かな自分のせいなのだから。 「酷い嘘?」 「うん。実はね、相手の人は騙し打ちみたいに連れてこられた、好きな人がいるんだって言っていたの。だから、円満に婚約解消しましょうって話をしてお別れしたのに、数日後には真逆の返事が来たのよ! 婚約解消は絶対にしないって」 「そ、それは……その、本人の意思が通らなかったとか」 「いいえ、本人の強い意向で婚約継続を希望するって書いてあったわ」  父上ー!?  その気遣い、ありがたくない! どんどん誤解が深まっている! 勘弁してくれ! 「ね、嘘つきだし、最低でしょう?」 「む、向こうにも事情があったんじゃ……」 「事情があったとしても酷いわ。もしかしたらこの数日で好きな人に振られたのかもしれないけど、私に好きな人がいるって知っていながら、婚約解消に反対するなんて、本当に最悪」  最悪、最悪、さいあく…………。  いや、頑張れ俺。誤解さえ解ければ、この点は許してもらえるはずだ。 「ニア、その……嘘つきはよくないよな」 「ええ。本当に大っ嫌い!」 「……………………その、俺がもし嘘をついたら、その…………」 「……? それはまぁ、ルディでも怒るわよ?」  怒るのか。そうか。そうだよな……。 「ニアはその、婚約者に会って、結婚したいとは思わなかったのか?」 「思う訳ないわ! 私にはルディがいるのに。……私を疑うの?」  涙声になるニアに、俺は慌てて言い募る。 「違う! 違うんだニア、ただその、少し不安になって……」 「私の心はルディのものよ。それにね、私はファニーチェク王国の未婚の貴族令嬢だから、対面時はヴェールを被ってて相手からも顔は見えなかったはずなのよ。お互いに好きな人がいるって話をして、首から下しか見てない女に執着するなんて、体目当てのとんだ助平野郎でしょう? 生理的に無理」  俺の中の真相を伝える勇気が、粉々に砕けるのを感じた。  あれか、ニアの中の俺……第6王子への印象はこんな感じか。 ・ 嘘つき野郎 ・ 好きな女がいるのに婚約継続を望む最低野郎 ・ 好きな男がいるニアと婚約継続を強行する最悪野郎 ・ 首から下しか見てない女に執着する助平野郎(生理的に無理) ←new!  ついでに、真相を話した後の俺への印象はこんな感じじゃないか? ・ 嘘つき野郎 ・ 対面しておいて第5王女がニアだと気がつかない馬鹿野郎 ←new! ・ とんだ誤解をさせる、根回しが下手くそなボンクラ野郎 ←new!  これは……これは……その……。  このまま真相を話したら、場合によっては、通話を切られてそれっきりなのでは。
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