4 大切なことは顔を見て

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4 大切なことは顔を見て

 俺はとんだ阿呆だ。愚か者だ。だけど、ニアを失いたくない。  俺は父に頼んで、飛ぶ勢いでファニーチェク王国に向かうことになった。  なお、ことの次第については、出立直前の朝一番に、緊急時しか使えない国同士の音声ラインを使って、ファニーチェク国王夫妻にも伝えられた。  ファニーチェク国王陛下は婚約に当たって、父と同じ程度の情報は持っていたらしい。今回の顛末の背景を伝えると、おおよそ父と同じような反応をした後に、俺に対して「まあその……娘を大事にしてくれよ……」という呆れたような言葉を下賜した。さもありなん……。  二人の逢瀬の場所となった王都公園の丘は、王子と王女の密会会場ということで、私服近衛兵のひしめく警戒レベルマックスの不穏な丘へと変貌してしまった。衆人環視の中でニアに謝ることとなった俺は、皆の期待を背負いながら、もしかしたら振られるかも、という思いで胃をキリキリと痛めていた。  ちなみに、呼んでないのに一緒に来た叔母夫婦も、私服近衛兵達と一緒に、公園の木の影から俺達を見守っていた。二人は、髪は焦げ茶色に染めたのね! とか、目は黒にしたんだなあとか、きゃあきゃあと喧しく騒ぎ立てているが、そろそろ静かにしてほしい。  本当は来て欲しくなかった。それに、色々と腹だたしい気持ちもあった。しかし、ニアとの婚約を組んでくれた恩があるので、ただの厄介な野次馬だと分かっていたのに、強く拒絶できなかったのだ……俺は弱い男だ……。  俺は悩んだ結果、小さな赤いチューリップの花束を用意して渡すことにした。花言葉は、『愛の告白』だそうだ。謝罪とプロポーズの気持ちを籠めたのはもちろんのこと、これがあれば、俺の気持ちがニアにあると一目でニアに分かってもらえるだろうし、駆け落ち感がなくて見張っている周囲のメンツにも安心されると思ったからだ。  本当はこういう時こそ指輪を渡したいが、王家の指輪は既に渡しているし、他のものを用意するには時間が足りなさすぎた。  ソワソワしながら、俺は日が沈む丘で、彼女を待つ。  来てくれるだろうか。来てくれるよな? 俺の話を、受け入れてくれるだろうか……。 「ルディ」  待ち望んだ声がした。
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